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48. 帰ろう2
「雪…光……?」
「何をしているのだ君は!」
怒鳴りつけられて、肩が震えた。
「水やりに行くと言ったきり姿を消して、私がどれだけ心配して探し回ったと思っているのだ」
心配……?
「え…、だって……」
「だってではない。勝手にいなくなるな」
「…でも、お前いっしょに下来なかっただろ。だからもう、僕のことなんかどうでもいいのかと思っ──」
「名波警視との話の途中だったのだ。すぐに終えて下りてみれば君はいない、携帯を鳴らしても電源が入っていない」
「携帯、たぶん部屋に…」
「昨日の今日で、どれだけ心配させれば気が済むのだ!」
「っ───嘘だ!」
「何が嘘だ!?」
「怒鳴んなよ。…怖いだろ」
押し返す腕に力を込めると、思いの外簡単に青山は体を離した。
「別に……僕がいなくたって、構わないんだろ、お前たちは」
「っ何…を言っているのだ、君は…?」
「だからっ!伊吹…がいるから、…もう僕のことなんて……」
「…誰に何を吹き込まれたんだ、君は」
「吹き込まれてなんかねーよ!お前たちがっ、そういう態度だったんじゃん!お前も!葵君も!」
「なるほど……。勘違いして、勝手に拗ねていたのか、君は」
「拗ねてねーよ!だからっ、俺は俺のこと好きなやつんとこ行くからな!追っかけてくんな!」
「追いかけるも何も…」
青山は、呆れたように深く息をついた。
もしかしたら、気持ちを落ち着かせるために、間を取ったのかもしれない。
次に発された雪光の声はとても、静かだったから。
「それなら君は、私のところへ帰る他の選択肢など持ち合わせていないではないか」
言われた意味が分からなくて、青山を見上げた。
滑らかな掌が、頬をやんわりと撫でる。
「君のことを一番好きでいるのは、この私なのだからな」
「えっ……?」
ま…、待て……。なんだその告白みたいのは……?
お前はただの同居人で、偉そうな意地悪探偵で、僕のことなんか馬鹿にしてて、ただの奴隷だって……あんなにヒドイ紹介してたくせに……
まず耳に届いたのは、年長組─中高生─の女の子たちの黄色い悲鳴だった。
続けて、ちゅーしたっ、ちゅーしたっ!と2回同じ言葉が囁かれた。
「ふぶきのばかーっ!」
今叫んだのは、竜弥か?
「なっ…なっ…」
心臓がばくばく跳ね上がる。
息が…、動揺して、息が上手くできない。
なんだこれ?なんだこれは!?
「おまっ……、今っ、なにっ…!?」
「キスをしただけだろう。君もいい歳なのだから、はじめてと言うこともあるまい」
「っ……ばかっ!男相手なんてはじめてに決まってんだろ!!」
ばかっ!信じらんねー、ばかっ!!
「こんなっ…ことして……、もう、恥ずかしくて…ここに来らんないだろっ!」
「更科嬢。一条君はこう言っていますが」
ばっ、ばか!春子さんに振るなよぉっ!
「…いえ、そんな……。探偵様、私僅かばかりですが、探偵様のことを見直しました」
「ほら、一条君。更科譲には好感触のようだ」
そんな訳があるか!気を使ってくれてるだけだよ!!
「何をオロオロしているのだ。落ち着きのない。もう帰るから先生方に挨拶して来給え」
「オロオロなんて…」
「っテメーのせいだろが!」
バシッと音がし、腰に回されていた手が離れた。
探偵が眉を顰め、視線を落とす。
代わりに随分と細くて短い腕が腰に巻き付いた。
「テメーで泣かしといて、かってにつれ帰ろうとしてんじゃねー!」
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