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50. 帰ろう4
「こんな時間に失礼致します。一条君を迎えに参りました」
「あ~、風吹君のお友達ね。わざわざご苦労様」
「いえ、こちらこそこんな遅くまでお邪魔してしまって。次からはもっと早く切り上げるよう指導いたしますので」
「指導っ!?…ってなんだよ!」
「いやいや、うちのタツが我儘言ったみたいでね。風吹君は付き合ってくれただけなんだよ。怒らないでやってね」
「浩介先生っ!?こいつ、僕より年下なんで!怒るとかないんで!」
「うんうん、そうだね~」
何を分かっているのか、浩介先生は笑顔で頷いてみせる。
そして探偵の隣にスッと着くと、
「風吹君は本当にいい子なんだよ。大切にしてやってね」
ぼそりと呟いた。
っ───聞かれてた!?
確かに大声でやり合ってたから、聞かないでくれと言うのが無理な話なのかもしれない。
けど、先生たちに聞かれてたとか───!!
いや、そもそも子供たちに聞かれてたのだって、大問題で!
それどころか、目の前で男同士のキスとか見ちゃって、今後の性の……性とかって、なんだよ!あーっ、もうっ!!
「あのっ、浩介先生!僕っ、こいつとはそのっ…日の当たる関係って言うか…!」
「大丈夫。僕は悟り開いてるから」
「悟りって…!だから、そうじゃなくて!……て言うか、…見てました……?」
「そうだなぁ…、見てたか見てないかはいいんだけど…。うちの子たち誘惑されんのは困るかもなぁ」
笑ってる…笑ってるよ……。
懐深いって言うか、なんて言うか……。
できれば、忘れてほしい……。
お前が悪いんだからな!そう気持ちを込めて睨み上げると、探偵は何が可笑しいのかクスリと笑った。
「さあ、帰ろう、一条君。名波警視の車を借りてきているのだ。早くしないと彼も帰れなくて困るだろう」
「えっ?…葵君も、待っててくれてるの…?」
「詩子と弟君には、執事殿と偶然会って連れて行かれたと誤魔化したそうだが…。勘の鋭い詩子辺りは気づいて心配しているだろう」
「詩子ちゃんも…心配してる?」
「しかしまさか、本当に執事殿に攫われていたとは…」
「っちがうよ!高虎と春子さんは僕より後にここに来て!」
「順番などどうでもいい。連絡が遅い」
何を言っても、探偵の中では高虎が悪者なのだろう。
「では、失礼した」
手首を掴んで引っ張っていこうとするから、慌てて引き止める。
僕を奪われないようにと、竜弥が必死に腰にしがみついている。
「竜弥、また来るから」
「……やだっ!」
「今度はちゃんと、寝るまで傍にいる」
「やだ。そいつ、ふぶきを泣かした悪いヤツだ…」
そして今、竜弥のことも泣かせている。悪いヤツだ。
「ふぶきは、オレが守るんだ。ふぶきはオレの嫁だから」
……男だな。かっこいいよ、竜弥。
だけど───
「大丈夫。僕は大人だから、自分で自分を守れるよ」
両肩に手を添えて、大丈夫だよと笑ってみせる。
「ベソベソ泣いてたくせに」
「うっ……」
おずおずと声の主を見る。ボソリと呟いたのは、潤也だった。
潤也は竜弥の頭を撫でて、そして、探偵をキッと睨み上げた。
「今度この人を泣かしたら、その時は二度と帰さないんで。分かったら、とっとと帰ってください」
かっこ悪いな、僕は。
子供たちの前で泣きべそかいて、中学生と小学生に守られて…。
しかも絶対、探偵との関係を誤解されてる………。
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