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51. 郷に入っては郷に従え1

探偵が運転席へ乗り込む。昼間も乗せてもらった葵君の車だ。 青山、運転免許、持ってたんだな。 助手席に座って、シートベルトを締める。 「まったく……君は、子供までも誘惑して」 覆いかぶさってきたそいつの頭にごつんと一発お見舞いする。 言っていることとやっていることが一致していない。 そもそも誘惑なんかしていないし、誘惑していないのにまたキスしようとしてくるし。なんだこいつは。 海外育ちなのか、親が西洋人なのか。 まあ、東洋人としては彫りが深いし、ハーフって線は有りか。 イギリス、フランスよりも、ギリシャとか、そっち系? 「なんて乱暴な」 自分だって散々僕の頭グーで殴ってるくせに。むかむかむか。 程なくして車が発進する。 「……で? 僕のこと好きで堪らないなら、なんで無視して外に出したんだよ」 「無視などしていないだろう」 「した!買い物に行こうって言ったのに、葵君と2人で事務所の外に出ただろ。あんなことされたら、僕のことどうでも良くなったんだって、そう思う…」 「すぐに着くから、少しだけ我慢し給え」 質問の答えになっていない。 探偵は、通りの少ない裏道で、車のスピードを少し上げた。 車が駐車場に入る。 探偵はエンジンを止めて、助手席のドアを開けようとした僕の腰を強く抱き寄せた。 「何を拗ねている」 「拗ねてねーよ。お前こそ、なにくっついてんだよ。デカい図体して甘えんな」 「慰めていると言うのに、甘えているとは心外だ」 肩にあごをのせて、頬に顔を摺り寄せる。 これで甘えていないとしたら、お前の甘える行為ってのは、いったいどれだけスキンシップの激しいものになっちゃうんだよ。 「あの時名波君は、呉島さんからの電話を受けていた」 耳元で探偵が諭すように優しく話す。 「重要な情報だった」 仕事の話、だったのか…。 それならあの時玄関の前で、手首を掴むなりして引き止めればよかったのに…。 「君に聞かせたくない話だったのだよ」 僕の心の内を読んだかのよう。 ピンポイントの回答に、その身を押して探偵の顔を見た。

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