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52. 郷に入っては郷に従え2

探偵はしばらく僕の視線を受け流していたけれど、やがて観念したように息を小さく吐き出した。 「仕方がない。…初めの電話は、君のストーカー、あの男の身柄を警察が抑えたという連絡だった」 「警察…?」 警察は、ストーカーぐらいじゃ動けない、逮捕なんて出来ないはずだ。 「勿論、ストーカー関連ではない。別件でだ。しかし理由はどうであれ、これ以上君に被害が及ぶことはないと判断した。下で花に水をやるくらいなら、外に出ても安全だろうと思ったのだ。まさかそのままいなくなるとは思わなかったのでね」 「そう言われれば、出ていかなかったよ」 それがどうして、聞かせたくない話になるのだろう。 「大体、私は君がいなければ眠ることすら(まま)ならないのだ。それを弟などで代用させようとは」 「なに言ってんだよ。僕がいなくても眠れるだろ。去年までは僕はここにはいなかったわけだし、実際こっちに来てからも雪光、昼間はずっと寝てたじゃないか」 「昼間しか、眠れなかったのだよ…」 「え……?」 「それより、事態はそう簡単なことではないのだ」 探偵がやけに真剣な顔をするから、睡眠の話はそこでお流れになった。 「事件が事件を呼ぶ、とでも言おうか。君と関係のあることか、それとも無関係のことか…」 「なんのことだ?」 「それが分からない内は、やはり君は外に出ない方が良い。片時も私から離れないよう。いいね」 片時も──なんて、当然いい訳がない。 探偵はまた仕事で出ることもあるのだろうし、また来るからと伝えた菜の花園にだって、近々また……いや、ほとぼりの冷めたころにまた行きたい。 だけど、あんまりにも探偵が必死な目で訴えてくるものだから……。 僕はそうしなければいけない気がして、うん、分かったと頷いてみせた。 探偵はホッとしたように頷き返すと、解放したはずの僕の背中に再び手を回す。 頬に、唇の感触。耳元でもう一度、ちゅっと聞こえた。 「あのなあっ!口じゃなきゃやっていいなんて言ってないぞ!」 「こんな挨拶如きで目くじらを立てるとは…、大人げない。君は私よりも3つも年上なのだろう」 やっぱり外国暮らしなのか!?ハーフなのか!? だけど、ここは日本なんだぞ!郷に入っては郷に従えーっ!!

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