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53. 男たちの事情1

あの日から、探偵は僕を滅多に外に出そうとはしない。 買い物も全部詩子ちゃんに頼み、少しでも陽の光を浴びたいと言えば、朝晩のお花の水やりだけ、それも探偵の監視付きでのみ許された。 僕としては、詩子ちゃんの方が女の子だし、1人で外に出すのは心配なのだけれど。 あの翌日だったろうか。 朝の水やりの帰り、郵便受けに入っている封筒を取り出そうとしていたら、探偵に横取りされた。 探偵宛に届くものは事務所宛か、間違えて詩子ちゃんのポストに入れられるかのどちらかだ。 『青山』が3つも表記されていてはややこしいから、僕と探偵の住む302号室のポストには『一条』としか書かれていない。 だからそれは、僕宛の郵便だった筈だ。 宛名を隠すように持つと裏の差出人を確認し、探偵はそれを自分宛の手紙だと言った。 それもまた、葵君との会話のように、僕には見せたくないものなのだろうか。 僕宛の郵便を僕に見せたくないだなんて、そんなことがあるのだろうか。

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