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55. 男たちの事情3

給湯室へ入る風吹を見送って、中川はソファーから立ち上がった。 「この役立たずが」 すかさず探偵は、彼に向かって悪態をつく。 「会話を止めないよう頼んでおいた筈だが?」 「春子様のご趣味を訊かれた。出来ることなら風吹に知らせたくはない」 「春子さんのご趣味、ですか?」 名波が首を傾げる。 「ああ、君も知らない方が良い」 「そうですね。知らない方が幸せということもあるでしょう」 探偵の意見に、珍しく中川が同意した。 「そんな事より、私も仲間外れですか?」 「民間人は関わらない方が良いだろうね」 「風吹を心配する気持ちは変わらないと思いますが」 「お察しします。しかし事は殺人ですから、下手に関われば春子さんにまで危険が及ぶ可能性もあります」 「そう…ですね……」 警視の忠告に、執事は頷き唇を引き締めて考え込む。 「それならば、詩子お嬢様も危険なのでは?」 「あれならば問題ないだろう」 事も無げに探偵は言ってのける。 「一通りの護身術は身に付けているし、あれはあれでいて聡い娘だ。君子は危うきに近寄らないだろう。執事殿が居なければ立ち行かないお嬢様とは違うのだよ」 「…確かに。それは耳が痛い」 「さあ、分かったらさっさと給湯室へ向かい給え。君には君にしか出来ない仕事があるだろう」 どうにも気分を害される物言いだが、相変わらず、その言葉に非は申せない。 中川は風吹の足止め要員として、給湯室へ向かった。

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