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57. 不安定2
階段を駆け下りる。
花壇、駐車場、下のカフェ───何処にも姿が見あたらない。
携帯電話を鳴らしてみるが、電源が入っていないため掛かりません、と機械的な声が告げるだけ。
「一条君を探しに行く!済まないが、詩子に出掛けたと伝えてくれ」
「わかりました!すぐに私も捜索に加わります」
名波は急く気持ちを抑えながら、なるべく普段と同じ様に階段を上がった。
ノックをして、扉を開ける。
「名波君おかえり~」
伊吹の声が、やけに暢気に感じられた。
「詩子さん。今し方中川さんがいらして、風吹さんと青山さんはお出かけになりました。私もそろそろお暇させて頂きます」
「そう…ですの?折角伊吹さんが来てくださったと言いますのに」
残念そうに小さく息を吐いた詩子に、伊吹は何も気付かないようで、じゃあ僕もお暇しようかな、とソファーから立ち上がる。
「私は本庁に用がありますので、これで」
一緒に帰ろうなどと誘われれば、面倒である。一足先に階段を下ろうとして、名波は足を止め、部屋を振り返った。
「詩子さん、女性一人では何かと物騒です。伊吹さんが帰られたら、エントランスにも戸締まりをしてください」
「はい。そう致しますわ、刑事さん」
詩子は神妙な顔で頷いた。
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