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60. カラス1

その男は、黒羽と名乗った。 苗字か名前かは解らない。ただの通り名かもしれない。 その名を聞くなり、葵君は、カラスか、と言った。 カラス──聞き覚えがある。確か、探偵の情報屋だったか。 そして何故か僕は今、葵君に甲斐甲斐しく世話を焼かれている。 「あの、今日は土産を持ってこなかったので、冷蔵庫に入っていたプリンですが」 「それ、俺が作ったおやつなんだけど」 「っ……すみません!」 「どうせ食べようと思って作ったんだから、別にいいけど」 「すぐに買ってきます」 「いいってば。そう言うの、なんだかパシリみたいで俺はキライ。普通に座ってろよ。落ち着かねーから」 葵君はシュンとして、ソファーに腰を下ろす。 そう言う反応されると、なんだか俺が虐めてるみたいなんだけど。 「さっすが元族のリーダー格」 カラスがこちらを見て、ニヤリと笑う。 「族じゃなくて、バイク好きで走ってただけ。言ったらツーリングだろ」 「スピードオーバーのツーリングは、暴走って言うんだよ、お姫様」 お姫様って……。それ、やめてくんないかな。 「俺は喧嘩もしてねーし」 「喧嘩は連れのタケ…だっけ?彼の方が強かったよね」 確かに、よそのチームとの揉め事は、タケ達が受け持ってくれていたけれど。 ……なんでこいつが、そんな過去のことまで知っているんだ? 「情報屋ってのは、なんでも知ってるんだな」 「そうだね、お姫様のことなら。過去のこと、今のこと、本人の知らない情報までも押さえてるよ。例えばタケの今も知ってるし、あんたが大切にしてた元カノの…」 「チヒロのこと!?……知ってるのか、お前!?」 「お前、はイヤだなぁ。ダーリンって呼んで」

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