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63. 面倒くさい1
状況は、僕が知らないところで随分と大きくなっていた。
あの日、僕が見つけた男の人は、間もなく病院で息を引き取ったらしい。
葵君の無感情な言葉に、急激に心臓が縮んだみたいに胸に痛みが走った。
その事件の最重要参考人と浮上したのが、例のストーカーの人──名を坂田昭彦と言うらしい──だった。
葵君が、僕が釈放された日の朝に、目撃証言を取ってくれたそうだ。
その人は真夏だと言うのに皮の手袋をし、例の路地から真っ青な顔で飛び出したところを近所のおばあさんにぶつかった。
ちょうどその時コンビニエンスストアの表を掃除していた店員が助けに駆け寄り、その顔を見たのだという。
男はまた、店員までも突き飛ばす勢いで走りだした。
様子がおかしい事は一目瞭然だった。
前日夕方に仕事を終えた店員が、運良く翌日、早番で仕事に入ったおかげで取れた証言だった。
重要なのは誰が証言を取ったかではない、重要な証言が取れたことだ、と静かに言う刑事さんに、それでも僕は感謝の言葉を伝えずにはいられなかった。
しかしまだその時は、その男が何者かは分かっていなかったと言う。
午後のことである。
目撃者の店員はあることを思い出して、警察署を訪れた。
男の顔にどこか見覚えのある気がしていた。一体何処で───?
それは、一条ビルディングの1階にある、カフェのテラス席だった。
そこは店員が通勤途中に通る道だった。
はじめて見かけたときは、随分とこの町にそぐわない感じの人だと一瞥をくれただけだった。
そのうち、18時からのシフトの日にはいつもそこに座っていることに気づいた。
汗だくなのにいつもテラス席にいる。店内なら空調も効いているのに、と、不思議に思って覚えていたのだと言った。
その話を聞いた正さんは、葵君から送られたメールを思い出した。
葵君は何か役に立てばと、写真と坂田さんのデータ、ストーカーの被害状況を正さんに送ってくれていたらしい。
店員に写真を見せた。───ビンゴだった。
警察は坂田明彦の身柄にすぐに手配をかけた。
けれど、その時にはもう手遅れだった。坂田はすでに、隣の管轄 で冷たい死体として発見された後だったのだ。
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