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65. 面倒くさい3

…伊吹とのこと、勘違いだったって…、僕のことが好きなままだったんだって……、それは分かるけど、分かったけど、な?雪光。 これは、懐いてるお兄さんに対してとる行動じゃないだろがーっ!! 「センセーいいなぁ。俺にもお姫様、抱かせてくんない?」 なんつー物言いだ!聞きようによっちゃ変な意味に取られかねないだろうが! 探偵は隣から伸びてきた手をパシンと叩き落とす。 「別に、誰の膝にでも乗るわけじゃないぞ、僕は」 特にカラスは、バイだの僕のことが好みだのって言ってるし、なんだか危ない気がするから近寄らないのが吉だ。 「こいつはまぁ、可愛い弟分だし、逆にこの図体で上にのられたら体が持たないから大人しく抱かれてやってるだけで…」 「可愛い!?…ですか?」 葵君が驚きに目を見開いた。 「見た目はこんなだけど、慣れれば可愛…くないこともない…気がする」 振り返って、姿を確認。 ……可愛い…かな……?…いや、でも……… 「君の方が断然可愛いのに…」 「っ……!?」 妙に色気のある声に、背筋がぞわっと粟立つ。 耳元で…っ、何囁いてやがるお前はっ! 「可愛く…ないだろ、別にっ。アラサーだし、おっさんだしっ」 耳に息が掛かって、なんだか…恥ずかしい。 「なんだよもぉーっ」 「何を一人で悶えている」 「悶えてねーよ!それより、手紙のこと、聞かせてもらうからな」 「なんだ……」 探偵が息を吐きだす。毛先が揺れて、首がくすぐったい。 「忘れていればよかったのに」 「なんの為にここでおとなしくしてやってると思ってんだよ」 「私に抱かれていたいからだろう」 「話を聞くためだよっ!」 だめだ…、こいつのペースにはまっちゃだめだ。弄ばれて、話を逸らされる。 「あの手紙は誰からのもので、どんなことが書いてあったんだ?」 膝の間で上半身を回転させて、探偵の胸を拳で突く。 「知れば、傷つくことになる」 「そんなの、お前がどうにかしてくれるんだろ」 フッと泣きそうに笑ったのは一瞬のことで、腕を広げた探偵は直後、体を強く抱きすくめてきた。 「遊んでんなよ」 「遊んでなどいない。君が、愛おしくなるようなことを言うから」 「…そうか……」 ……懐いてたのか。詩子ちゃんじゃ、頼りにしてもらえないもんな…。 頼られて、嬉しかったのか……。 こういうとこが、可愛いんだよな…、雪光。 ポンポン、と背中を撫でてから、体を離す。 「で?」 「………名波君」 探偵の視線が、葵君へ向けられた。 再び体を回転させて、今度は葵君に向き直る。 「風吹さん。その手紙は、今は私が預かっています」 「葵君が?」 神妙な顔で頷く。 「お察しの通り、風吹さん宛のものです。差出人は、坂田明彦」 「ストーカーさんから…?」 「死人からの───手紙です」

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