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66. 最期のラブレター1
死人からの手紙は、最期のラブレターであり、これから犯す殺人の声明文でもあった。
そこには、僕に対する思いの丈が綴ってあった。
初めて会った居酒屋で、 僕は彼に、お仕事お疲れさまです、と微笑んだらしい。
僕は探偵に向けて、立て替えてくれたお金を後で払うと言ったらしい。
普通のことだ。僕にとっては当たり前のこと。
それを彼は、とても嬉しく、とても眩しく感じたのだと。
貴方はこんなにも純白で美しいのに、自分はとても汚れています。とそこにはあった。
お金があればどうにかできると思っていた。愛も手に入るものと思っていた。
けれど、それは違うと貴方は教えてくれた。
自分は、自由になりたい。束縛から逃れ、洗い清めた体で、貴方に好きだと伝えたい。
彼女から解放されるために、今から身を清めに行ってきます。
血を浴びるから、すぐには会いに行けないけれど、真っ白な貴方に触れても貴方の体が赤く染まらないほどに清められたら、すぐに貴方に会いに行きます。
貴方は良くやったと褒めてくれるでしょうか?
貴方に、褒めて欲しい。
その綺麗な笑顔を、穢れ無き笑顔を、僕にまた見せてください。
「───だから…見せなかったのだよ」
探偵が、ぽつりと言った。
唇を必死に噛みしめる。そうしていないと、嗚咽をあげてしまいそうだった。
「唇が切れてしまう」
指先が、唇をなぞっていく。指を無理矢理、口に差し込まれた。
文句も言えない。
「私の指なら、噛んでも構わない」
だから唇を傷つけてはいけないと言うと、探偵はもう片方の手で僕の背中を抱きしめた。
こんな時ばっかり、優しくするなよ……。
探偵の肩に瞼を強く押し当てる。
泣いちゃだめだ。泣いてしまったら、探偵が、葵君が守ってくれたその意味が、無くなってしまう。
「へい…き…っ」
唇が震える。
「僕は…へいき、だから…、続けて…っ」
傷ついている訳じゃない。人が死ねば悲しいものだ。僕は、だから、知っている人が亡くなって、それが悲しくて泣いてしまいそうになっている、それだけなんだ。
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