137 / 211

69. 卑屈なお姫様1

「杉内稀世はどんな女だ?」 「フツーの女ですよ。元々はそんな太っちゃいなかった。 男に奢らせて食いまくって、今の体型になったらしい。まあ、30過ぎて同じ食生活じゃ太るわな。  学生の頃は極々普通だったが、この普通ってのが中々タチに負えなくてねぇ。 大人しめの子なら、突然モテ期が訪れても、テンパっちゃって調子に乗っちゃうか逃げちゃうか、どっちにしろ可愛い反応しか出来ないわけよ。  だが、この普通の女の居たグループ内には美人が1人。それから中村妙子──妙子ママ。と、これらの女が目の前で見せてくれてたんだ。 男を弄ぶオンナの手練手管は弁えている。簡単なハニートラップにゃ引っかからねーよ」 「では、警察である名波君は除外するにしても、私は勿論、中川さん、黒羽でも質が良すぎて使えない、と言うことか」 ハニートラップ───色仕掛けってことか。 お金を持ってる地味な人を狙うから、顔が良い人は除外ってこと…だよなぁ。 「じゃあ、僕でいいじゃん」 「はっ!?」 「風吹!?」 「風吹さん、何を…!?」 そ、そんなに揃ってびっくりしなくたって……。 「えっと、だから、僕なら一応ビルのオーナーだからお金もある程度持ってるだろうと思われるだろうし、顔も地味めだから適任かなって。ていうか、いないんだろ他に。じゃあ、僕がやるしかないじゃないか」 「ヤバい…、めっちゃ男前なんだけど……」 カラスが口に手を当て、ポツリと呟く。 「一条君、今は冗談を言うタイミングではない」 「なんだよ、冗談なんか言ってねーよ」 「我々は君を護るためにこんな面倒な事件に首を突っ込んでいるというのに、その事件に君自身が関わりに行ってどうすると言うのだ」 「お前らだって、顔が良い奴でも構わないなら自分で行ってもいいとか思ってんだろ!僕のこと護るために、危ないことなんかするなよな! それに、なんで僕だけ護られる側なんだよ。なんでお前らは恰好いいんだよ。そこまでしてイケメンとの差をまざまざと見せつけんじゃねーよ!腹立つし、傷つくだろ! 僕だってみんなの役に立ちたいんだよ!!僕だけなんにも出来ないみたいでムカつく!」 探偵の胸を、振り返って、ドン、と叩く。 隣でカラスが、プッと吹き出した。 「…まさかの、劣等感からの志願とか…超ツボなんだけど……」 ツボってなんだよ、カラスまで僕を馬鹿にして! 「だって、3人とも絶対ずるい。僕だけ皆より下に見られてる気がする。 確かに背も低いし、力じゃ敵わないだろうし、頭も悪いし、顔も良くないし、みんなより全然劣ってるかもしれないけど…」 「何を言っているんですか!風吹さんは可愛いです!」 葵君がソファーから勢いよく立ち上がった。 つか、可愛いって、……葵君? 「風吹、そんなことを本気で言っているなら怒りますよ」 うっ…、そうだよな。高虎は、男が男を顔で選ぶかって、この間も怒ってたし。 でも!見劣ってる側からしてみたら、気にするなって方がどだい無理な話なんだからな! 「風吹の顔が良くないなんて、一体誰が言ったのですか!?こんなに可愛いのに!!」 「えっ!?ちょっ…!」 高虎まで、なに!? 「だからいつも言っているだろう。君は可愛いと。まさか、本当に信じていなかったとは」 「お前のそれはっ、だって……」 な…なんだよこの、男に囲まれて可愛い可愛いって言われる状況はっ! 「なんでお姫様は、そんなに卑屈になっちゃったの?」 「卑屈って…っ」 カラスの指先があごに触れる。ん?と瞳を覗き込まれて、なんだか気恥ずかしい。 そうだ、この男もフザけてばかりでつい忘れてしまうけれど、百戦錬磨の色男なんだ。顔、整ってんだった…。 「だって僕、女の子にモテた(ためし)がないし、なんか、それどころか…派手な女の子には、地味でつまんないってモブ扱いされるし……」 「そんなのは、風吹様の可愛さに嫉妬しているだけです」 「そうですわ!その方たちはご自分の好意を寄せる殿方が風吹様に夢中だからと、八つ当たりをされているだけです!」 「風吹様は本当に可愛らしくて素敵です。私たちが保証いたします」 「え………?」 「あっ………」 何時の間にそこにいたのか、入口ドアのこちら側で女性たちは三者三様、申し訳なさそうに視線を伏せた。

ともだちにシェアしよう!