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74. まやかしの平和1
のどかな日々が続いていた。
それは、事件の上に蓋をして隠した、偽りの平和なのだろう。
葵君は今も捜査本部を指揮して、事件を追っていることだろう。
僕はネコじゃらしで猫をじゃらしていて、探偵はパソコンをカタカタとやっていて。僕はそれを見ながらボーっと何かを考えていたりいなかったり…。
チリン、と音をさせて、猫が窓際のクッションに寝転んだ。
機械的に振っていたネコじゃらしが意味をなしていなかったことに漸く気づき、なんとなく恥ずかしくなってテーブルの上に放り出した。
ソファーに寝転ぶ。
最近はデータで済む依頼しか受けていないらしく、事務所に依頼人が訪れることもない。
探偵の為に動いていても、こうして寝ていても、一日は同じように過ぎていく。
このまま外に出られない暮らしが続けば、怠け癖がついてしまう。
だけど、この部屋で出来ることは限られていて、それが終われば僕のやれることなんて無くなってしまうから。
ふと、近くに人の気配を感じて目を開ける。
ほっぺたに触れた唇の感触。
名残惜しそうに、指先が滑っていく。
毎日毎日しょっちゅうやられていれば、いい加減慣れるけど、な…?
「ほっぺなら許されてるとか思ってんなよ、お前」
「なんだ、細かいことを」
「時々、お前の目に、僕は女の子として映ってるんじゃないかと思うよ…」
小さく息を吐き出す。
また、探偵の顔が近付いてくる。
甘やかしてるよなぁ、とは自分でも思うけれど。
「嫌ならば、もうしない」
そんな目で見てんじゃねーよ。
家族だから、兄貴分だから、…そんな風に思って甘えてる訳じゃないんじゃないかって、そう思えてくるだろ。
「イヤじゃないから、困ってんだろ」
答えるや否や、探偵のキスは今度は唇めがけて下りてくる。
なんで…、なんで大人しく受け入れてやっているんだろう。
なんで、こんなにふわふわするんだろう。
こいつは、外国育ちかなんかで、貞操観念が緩いだけなんだ。
それなのに、日本男児の僕が、どうして流されて、このままくっついていたいなんて……離れないで欲しいなんて思わなくちゃいけないんだ。
このところ、ずっとぼんやりとした日々を過ごしている所為なのか。外に出られない人恋しさ故なのか。
こいつ、なんかいい匂いするし……
気持ち…い………、っ!?
───あほか!! 今、完全に流されそうになってた!!
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