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76. まやかしの平和3

事務所内に反響するほどの大声で叫んだのは、僕じゃなかった。 「いけませんわ。兄様ではやはりダメですわ」 「えと、詩子ちゃん…?」 「風吹様~っ!」 抱きつかれて、…何故だか泣かれた。 この兄妹は、抱きつき癖でもあるのかな? 「私が悪かったのですわ~っ!風吹様がっ、襲われる風吹様が余りに愛らしくて、止めることもせずについ見入ってしまったものですから」 「見入…っ!? 止めてよっ!」 「止めろだなんて…酷いですわ!風吹様はご自分がどれ程可愛らしく乱れておいでかわかっていらっしゃらないのですわ!私の脳内フィルターが兄様の姿を中川さんに変換さえしなければ……!」 「えっ?高虎?」 「すべて風吹様が可愛すぎるのがいけないのです!それなのに、止めろだなどと……、ムリですわ!風吹様は残酷な方です!」 「えっ、残酷って……!? ……えぇ…と…?」 詩子ちゃんが泣いている。それは探偵の仕業とばかり思っていたけれど……。 原因は僕…なのか───? 「あの………ごめんなさい」 「いえ、いいえ、わかってくだされば宜しいのです」 え、えぇと…、何を分かればよろしいんだ…? 「あの、詩子ちゃん……?」 「風吹さん、これは一体………?」 「えっ…?」 入口の扉前に立っていたのは葵君だった。 探偵が引き入れたのだろう。腕を組み不機嫌な顔の探偵の隣に、呆然と立ち尽くす彼の姿。 「あの、詩子ちゃんが…」 「葵様っ!」 詩子ちゃんが僕の元から離れ、葵君へと駆け寄った。 何が起こっているのか理解できずに、ただ彼女の背中を見送る。 「葵様!」 詩子ちゃんが葵君の胸に飛び込んでいく───美男美女の抱擁シーン。………と思ったのも束の間、肩透かし…? 詩子ちゃんは葵君の胸に飛び込むことなんかせずに、その手を掴むと、僕の前へと連れてきた。

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