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82. 約束

春子さんの姿を確認するなり、詩子ちゃんは彼女に抱き着いて再び泣き出した。 何を訴えているのか聞き取れない声を、春子さんはうんうん頷いて聞いてあげている。 そしてこちらを振り返ると、 「風吹様、なんてお酷いことを」 視線と言葉で責められた。 「えっ…、あの、僕詩子ちゃんと話してただけで、そんなヒドイこととか…」 「ここから出て行くことを臭わせ詩子さんを動揺させたとか」 「臭わせ…って言うか、その…」 「風吹、ここを出て何処へ行こうと…!?やはり探偵殿が貴方を……」 「待て!高虎、違うからっ、誤解だから!」 助けを求めて連れてきたはずなのに、なんで事態を大きくしようとしてんだよ! 「みんな、とりあえず落ち着こっ?ね、詩子ちゃん。僕はここにいるから。出て行くとか言わないから!」 「ほぶどでぶがー!?」 あー、もう、涙と鼻水で訳わかんないことになっちゃってる。 「はい、ちーんしてごらん」 ティッシュを当てて、鼻をかんであげる。 なんだコレ、うちの弟妹にもやったことない体験だ。 「風吹様~~っ」 「あぁ、良かった。声、戻ったね」 「風吹様ーっ」 ぎゅーっと、しがみつくように抱きつかれた。 これ、なんか……… 「だいじょうぶ、だいじょうぶ」 なんか、詩子ちゃん、思ってたよりも小さいな…。 しっかりしてるから、そんなイメージなかったけど…、ちっちゃくて、細い。 ……ああ、そうか。これ……、竜弥に抱きつかれた時と似てるんだ………。 やっぱり詩子ちゃん、本当は子供みたいで、幼くて……胸がほっこりする。 「よしよし」 背中をさすって、頭を撫でる。 気づいたら尚のこと可愛く思えてきた。 高い高いとかしたら、流石に怒られるかな。 「だいじょうぶ。何処にもいかないから」 「ぜったい!ぜったいです!」 「うん。ぜったい、ぜったい」 よーし、約束の高い高~い───と、あと一瞬でやるところだった。 「───一体何をしているのだ、君たちは」 開いたドアの向こう側でこの部屋の主が、呆れ返った顔をしてこちらを見ていた。

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