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84. 竹取物語2
アイスコーヒーのグラスを3つと、女性にはアイスのアールグレイを持って、皆が待つ応接席に戻った。
珍しい。探偵と詩子ちゃんが並んで座っている。
…いや、残りが高虎と春子さんなんだから、その並びも当然のものか。
春子さんと詩子ちゃんの並びは兎も角、探偵と高虎が隣同士で座るとは思い難いし、見ていてもなんだか窮屈そうだ。
高虎はいつも通り、春子さんの斜め後ろに立って控えている。
グラスを配って、車付きの椅子を用意しようとすると、探偵に手を取られ引き止められた。
「どうせ泣くのだから、ここにいればいい」
膝をぽん、って……
「いやだよ、春子さんと詩子ちゃんがいるんだぞ」
どうせ泣くのだから、には強く否定できないけど。
「黙って言うとおりにし給え」
そのまま強く引かれて、脚の間に座らされた。
「…まったく。お前な、成人男子同士のお膝抱っこなんて、女性の前でやることじゃないぞ。見てて不快だろうし、…恥ずかしいだろ」
振り返って訴えると、探偵は鼻で笑って女の子たちを顎で指した。
仕方なく、春子さんの様子を窺う。
春子さんは掌を顔の前で合わせ、キラキラと輝く瞳で僕たちの方を見つめていた。
「風吹様、私共のことでしたら、どうぞ気になさらないで下さいませ。心の目でフィルター補正致しますので」
「えっ…と?なんですか?心の目??」
「まあ、お姉さま。でしたら中川さんのお膝をお貸しくださいな」
身なりをすっかり綺麗に整えた詩子ちゃんが、春子さんに楽しそうにねだっている。
詩子ちゃんは高虎推しだって言ってたから、自分も高虎の膝に座らせてほしいんだろう。
なんならここ、お兄ちゃんの膝を返してあげたいけど…。
春子さんは少し渋るように高虎の顔を見上げ、不服そうに小さく息を吐いた。
「…………中川、風吹様に膝を…」
「なんでそうなるのっ!?」
「彼女たちは放っておけばいい。それよりも君は、結末を知りたいのではなかったのか」
「……うん」
「ならば、そこで大人しくしてい給え」
お腹に回された手にグイッと引っ張られて、座り直させられる。
振り返って見上げると、探偵は春子さんに視線を向け、口を開いた。
「更科さん、先にお断りしておきます。
貴女と詩子は事の全容を知っているわけではありません。
しかし、私には貴女方に説明せねばならない義務はない。疑問があれば、話の後家に帰ってから執事殿に伺って下さい。貴女と詩子からの質問は一切受け付けない。
それに不満を感じるならば、すぐに妹を連れ3階へどうぞ」
「…またお前は、そういう意地悪を」
「意地悪など言っていないだろう。私は余計な手間を省きたいだけだ。大体、私はこれから泣きじゃくる君のフォローもしなくてはいけないと言うのに、それ以上の余力など……」
「じゃくりまではしねーよ!」
「杉内稀世は死んだよ」
「え……っ?」
探偵が、あんまりにも自然に口にしたものだから、僕はそのまま、探偵の顔を見上げたまま───
「竹取物語は、…流石の君でも知っているだろう?」
ひとつ大きく、瞬きをした。
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