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85. 竹取物語3

「なんだ、知らないのか?」 「あ、……いや、知ってる。竹から生まれたかぐや姫、だろう」 でも、なんで急に昔話なんて……? 「桃から生まれた桃太郎のような言い方をして…。かぐや姫は鬼退治には行かないぞ」 「わかってるよ。でも桃太郎と一緒で、むかしむかしあるところにって」 「古文の授業で習わなかったのか?今は昔、竹取の翁といふ者ありけり、だ。一条君」 探偵は小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、その入りの文句をすらりと口にした。 こいつのことだ。下手をしたら全文記憶している可能性もある。 原文のまま物語をすべて語られては適わない。訳分かんなくて100%途中で寝る。 「金色に光る竹に女の子が居るのを見つけんだろ」 急いで話を先に進めた。 「で、すぐに大人になって、月に帰って行ったって言う」 「途中が抜け過ぎだ」 「途中…?えーと、お爺さんは山へ芝刈りへ、お婆さんは川へ洗濯へ…」 「それこそ桃太郎だろう。翁は芝刈りではなく竹取りが仕事だ。姫は川を流れてきた桃の中ではなく、もと光る竹の中にいたのだ」 「わかってるよ。さっきそう言っただろ」 顔を見上げて文句を言うと、探偵はフッと口元を緩めた。 ………馬鹿にされている。 「君の省いた部分はこうだ。姫を連れ帰って育てるようになってから、翁は竹の中に金を見つける日が続き、夫婦はどんどんと豊かになっていった」 「へぇ…」 「へえ、ではない。勉強を疎かにするから君には教養が足りないのだ」 返す言葉もなく、黙り込む。 余計なことは言わず、おとなしく話を聞くのが最善だ。 これ以上口を開けば、春子さんたちにどんどん馬鹿なのがバレてしまうだけだ。 「翁の見つけた三寸の子は、3ヶ月ほどで妙齢の娘へと成長した」 「三寸…って、どのくらい?」 「一寸が約3㎝だ。正確には3.0303…と続くが」 「んじゃあ、…9㎝?ちっさ!それでなんで3ヶ月で妙齢にまで…妙齢って何歳くらい?」 「第二次性徴を越えた辺り、君にわかりやすく言えば身長の伸び終えた、女性ならば中高生程の年齢だろう」 「あ、じゃあねぇ、雪光。その高校生のかぐや姫って、おやゆび姫みたいに小さいまま?それとも人間サイズまでおっきくなったの?」 「人のサイズだろう」 「3ヶ月でそんなに育つと、成長痛もキツそうだよなぁ。僕でも脚とか関節痛かったもん。服も困るよね。昨日の服がもう今日着られないとか。あっ、でも、お金持ちになったんだっけ。じゃあ服代は平気かぁ」 「……こんなにも───」 「ん?」 「竹取り物語に食いついた人間を見るのは初めてだ」 「えっ……?」 フッと、隣から息が漏れるような声が聞こえた。 「いえ、申し訳ありません。余りにも可愛らしくて」 詩子ちゃんが、堪えきれずに吹き出した音だった。 正面では、高虎と春子さんがお互いに顔を背け、口を押さえて、……笑いをかみ殺している。 「一条君、続けても?」 探偵の問いに、黙って頷く。 どうやら僕は、こういった場所では口を開かないのが吉らしい。

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