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86. 竹取物語4
「娘はこの世のものとは思えない程に美しく育ち、 御室戸斎部 になよ竹のかぐや姫と名付けられた」
みむろのいんべ、ってのが何か訊ねたら、また呆れた顔をするんだろうな。
疑問を飲み込んで、探偵の次の言葉を待つ。
「斎部氏とは、朝廷の祭祀を司る氏族のことだ」
「………」
雪光、お前ちょっと親切すぎるぞ。
知ってるよ、と言えば嘘になるが、そうなんだぁ、とも聞き入れられない。なんか、……プライド?
取り敢えず、心の中でだけ「ありがとう」と唱えて、袖を引いて先を急かした。
「男たちはその貴賤 を問わず、その噂に高いかぐや姫と結婚したいと、恋い慕い思い悩んだ。その姿を覗き見ようと竹取の翁の家の周りをうろつく公達 は後を絶たなかった」
きせん…?…きん…だち……?
「君にも分かるように言えば、公達とは貴族のことだ」
……じゃあはじめっから貴族って言えよ、ばか…。
それに、きせんってのは結局なんなんだよ!
「さて、志のない者は一目見ることも適わないかぐや姫にその内愛想を尽かす。最後に残ったのは、色好みと名の知れた5人の公達だった。 石作皇子 、車持皇子 、右大臣阿倍御主人 、大納言大伴御行 、中納言石上麻呂 」
早口すぎて、5人と言われなければ何人の名をあげたのかさえ区別が付かない。
なんか、ウミウシとか、最後に有名な家族の苗字が出てきた気がしたけど。いや、毒舌漫談の人だったかも…?
「この中の1人と結婚をしろという翁に、かぐや姫は一つの条件を出した。 自分の指定した物を持って来ることが出来た者に仕えると言ったのだ」
「…あっ、それ知ってる!無理難題をふっかけて、全員フッちゃうやつだ」
「…簡潔に言えばそうだ。君の言う無理難題を説明すると、それぞれの公達に、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘、龍の首の珠、燕の産んだ子安貝を持って来いと言うこと」
皆は理解できてるのかな…?
チラリと周囲を窺うと、高虎も春子さんも、隣の詩子ちゃんも、話について行くのでいっぱいいっぱいな顔をしている人はいない。
僕はいっぱいいっぱいどころか、全然ついていけていないのに……。
これが、教養の差ですか。そうですか……。
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