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87. 竹取物語5

「加藤万里は、女の求めるものならばなんでも買い与えたと言っていた。それこそかぐや姫の求めたもののように、話にしか聞かない───まあ、ブランド品の限定版や、紹介者なしでは入ることのできないレストラン、そう言った我々にとっては容易く手に入る類のものだが」 「…なんか、生きるのが虚しくなるからそういう言い方はやめろ」 「それは失礼」 ……お前、今一般人馬鹿にしただろ。 一般人がいるからこそ、お前たちみたいなやつらが偉そうに胡坐かいてられるんだぞ。わかってんのか? 胸ぐらの一つでも掴んでやりたいが、両手は探偵の手によりに拘束されている。 諦めて体勢を戻すと、背後から温い息が吹きかかり、耳の上の方をぱくりと甘噛みされた。 「っ───!?」 だっ…だめだっ!すぐ傍には詩子ちゃんと春子さんがいるんだ…! ここは、僕が大人になって、甘えたなガキの行動を笑って流してやらないと……! 「君が望めば、私ならばすぐに手配してあげられるのに」 大人に……… 「っいらねーよ!それよりお前は勝手に人の耳噛むな!あと耳元でしゃべんじゃねー!」 ぜんっぜん、大人になれねーじゃねーか!お前のせいだ!ばか光!! 「なんだ、急に大きな声を出して。恥じらうならもう少し可愛く恥じらい給え」 「恥じらってねーよ、怒ってんだよ!それよりっ、……お前、加藤万里に会ってきたのか…?」 「───ああ。2人を手にかけた、殺人犯だ」 2人………? 「坂田さんと、……杉内稀世?」 探偵は、答えない。 何も言わないことで、肯定を表しているのだろう。

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