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89. 竹取物語7
恋患って命を落とした人。
愛の為に、病を患った人。
愛故に、死なない道を捨てた人。
「愛とは時に、人を狂気の道に走らせる。───君も、覚悟してい給え」
「え───?」
「加藤は、稀世から別れを切り出された。好きな人が出来た、と言われて。別れ渋った加藤に、稀世は前の男のようにしつこくするのか、と言う。まだ10年20年は生きたいだろうと。
ストーカーだと言う男は、自分が殺した。女と別れては生きていけないと思ったからだ。しかし、女は己のことも、ストーカーと化すのかと訊いてくる」
利用…されていただけ、だから……。
愛されていると思っている相手に、突然冷たく突き放されて、嘲笑われて……
「このままでは、自分の殺した男の二の舞、自分も殺される、と。衝動的に、殺したそうだ。自分が贈った花束の飾ってあった花瓶で、何度も、何度も…」
2人も………人を殺したはずの人の話が、とても悲しく感じられた。
殺されて当然、なんて人はこの世にいない、と言う人もいるけれど……、それは確かに、真理なのだろうけれど……。
殺した人のことを、責める気になれない殺人なんて………
「本当は、杉内稀世から様々な情報を引き出し、インターネットで世界に拡散させて、内側から苦しめて思い知らせてやる予定だったのだが………、60代の衝動を甘く見ていたようだ」
「…もぉ……」
なんだか、ばかなことを言っていやがる。
「元々ハッピーエンドとは成り得ない話だったが、事件はこれで終結だ」
「うん。……後味悪い…な」
「君が望むなら、ステルスの集めた稀世の情報をマスコミにばら撒いておくが」
「望まないよ、ばか」
探偵の膝から滑り下りる。席を移ろうとすると、手首を掴んで引き止められた。
「泣かないのか?」
「……泣かねーよ」
っとに、もー。手を離しなさい。
お前が、かぐや姫なんかと雑 じらせて話すから、事件から現実感が薄れちゃったんだよ。
なんだか、物語を聞いているみたいで、他人事みたいで………。
…………僕のことを、守ってくれて……ありがとうな、雪光。
流石にここまでやられたら、鈍い僕にだってわかるんだよ、ばか。
すごく、すごく、守られてるんだ…って。
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