158 / 211

90. 第二章-最終話-1

「これで、もう風吹様が危険に遭われることもなくなった、と言うことですわね」 詩子ちゃんが、ホッとした様子で息を付いた。 「これからは安心して外出できますわ。よろしかったですね、風吹様」 それに対して探偵が、「この馬鹿者め」と一喝する。 「一条君は危機感がなく迂闊な行動に出ることが多い。この男の周りに安全な場所など、このビル内の他何処に存在すると言うのだ」 待て、僕はそんなに迂闊じゃないぞ!───と否定したいのはやまやまだったが、罵詈雑言で心を折られることは火を見るより明らかで…。 悔しい気持ちと共に、僕はグッと言葉を飲み込んだ。 「これからも風吹は、私と別行動の外出は避けるよう」 「えっ、冗談…」 「………」 「…じゃ、なさそうだな……」 目が……こわい………。 確かに今回はちょっと迂闊だったかもしれない。 けど、僕だって立派に成人してる男だぞ。1人で外出禁止とか、有り得ないだろう。 「雪光は、ちょっと過保護だと思う。って言うか、僕の方が3つも年上なんだからな」 だからもっと敬って欲しい、という願い入れは素早い返しによって口にすらさせてもらえない。 「だったらもっと年上らしく振舞い給え。年下の膝にちょこんと乗って」 「ちょこんとか言うなっ!つーか、お前が勝手に乗せたんだろうが!」 「ならばせめて、これを付けていろ」 雪光が、ポケットから何かを取り出した。手の中で、何かがしゃらりと音を立てる。 ダイヤと思われる、大きめの石。 これって、何カラットあるんだろう?怪盗が盗みに来るほどではないけれど、…1cmはあるかな。大きいよな、これ。 でも、ダイヤ石に、華奢な鎖に。 これって、どう見ても……… 「探偵殿、それは女性ものでは?」 ───だよな!女性ものだよね、高虎!? 女性もののネックレスなんて、男の俺がつけられるかーっ!! 「ゆきみ───」 「兄様っ!?それは董子(とうこ)お姉様への贈り物ではありませんの…!?」 文句を言おうと口を開いた瞬間、それは詩子ちゃんの言葉に掻き消された。 「え……?」 とうこ…さん……? 誰だろう。はじめて聞く名前だ。 「詩子」 探偵が、険しい顔をする。 「初めに伝えたはずだ。お前からの質問は受けないと」 「ですが兄様、これは、事件とはなんら関係のないお話のはず。それならば私の質問も…」 「お前の質問に応じなくてはならない義務が?」 「否定なさらないと言うことは、肯定と捉えて宜しいのですね」 「……勝手にすればいい」

ともだちにシェアしよう!