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91. 第二章-最終話-完

変だ───と思った。 雪光が、変だ。 いつもと違う。おかしい。 こんな風に、自分から視線を逸らして、黙り込むなんて。 董子さんって、誰だ? 僕に言えないこと? 守ろうとしてくれてる………わけじゃなさそうだ。 どうして、その人への贈り物を、僕に渡そうとしたんだ……? 両手で、雪光の顔を挟んで覗き込む。 視線が合わない。 逸らされる。 「雪光……?」 「竜の首の珠など差し出したところで……」 「え…なに……?」 「気分が優れない。部屋に戻る」 立ち上がった勢いのまま、僕は体をソファーに放り出された。 「更科さん、執事殿、ごゆっくり」 吃驚している間に、部屋を出て行ってしまう。 「申し訳ございません、風吹様」 詩子ちゃんが、済まなそうに手を貸してくれる。 階段を上る足音が、小さくなっていく。 「なんで───……?」 なんで放り出された? なんで女性物のネックレスなんて…… なんで詩子ちゃんが謝ってるんだろう? なんで、あいつは逃げて行ったんだ? なんて言った?最後に…… 「董子さんって、誰?」 それが一番聞きたかったことでもないだろうに、口をついて出た。 詩子ちゃんは言い出し辛そうに、その視線で もう見えない兄の姿を追う。 詩子ちゃんが言いたくないのなら、仕方がない。後で雪光に、 ………いや、何も聞かなかったことにするのがいいのだろう。 一緒に住んでいる家族などと言っても、それも一緒にいるときだけ。離れれば、ただの他人だ。 僕が興味本位で訊いて良いことではないだろう。 だけど──── 「私たちの幼馴染で、……兄の、恋人で……婚約者です……」 ………あぁ、雪光にも、そんな人がいたんだ……。 よかった。 もしかしたら僕のことを好きなんじゃないかって……そう思うところだった。 あいつ、ちゃんと男で、ちゃんと好きな女の人がいて─── 「……そっ…か…」 やっぱり僕のことを、からかって、意地悪してただけで……… 「喉、乾いちゃったね。お替わり淹れてくるから、待ってて」 「風吹様、でしたら私も───」 「大丈夫!1人で。……ね?」 なんとなく晴れない心を、事件の悲しい結末の所為と心に言い聞かせて、僕は給湯室へ向かった。 大人しく寝ていた筈の猫が、足にとすんとぶつかった。 -to be continued-

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