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1. 怒りの理由
あの日僕は雪光に、襲われた───のだと思う。
部屋に入るなり腕を強く引かれてベッドに組み敷かれて、有無もいわさず顎を押さえ舌をねじ込まれた。
感情をぶつけるような激しいくちづけに、雪光は必死なんだろうと感じた。
切なくて、哀しくて、なんだか淋しくて……、涙がこぼれた。
あぁ、僕は董子さんの代わりなのだろうと。
今の2人には会えない理由があって、きっと顔や背格好が似てるだとか、雰囲気が似ているだとか、それで僕に彼女を重ねて。……甘えていたのかも知れないな…って。
静かに涙をこぼしながら、あいつの激情を受け止めた。
雪光の手が、腰を撫でる。ムズムズして、身体をズラした。
そこで漸くあいつは、僕の顔を瞳に映した。
ハッと目を見開いた。
少しだけ僕の顔を見つめて、直ぐに身体を離した。
あぁ…、やっぱりな。
好きな人に重ねて見たって、僕は僕でしかない。男だ。女にはなれない。
今までだって、他の女性を代わりにしてきたんだろう。
僕じゃ余りに、不格好すぎるよ…。
「……すまない」
そう言って、その夜雪光は家を出たきり、昼過ぎまで帰らなかった。
それ以降、向こうからは禄に口も聞こうとしないまま、寝るときも決してこちらを向こうとはせず、ベッドの端で壁に向かって。
そんなわけで、俺の腸 はそろそろキレそうなぐらい、煮えくり返っている。
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