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2. 消えてあげる1
いつもよりも遅い時間、寝たふりをして毛布にくるまる。
今日はあいつが出かけていたから、昼間ぐっすり寝溜めしておいたんだ。
今日こそ、話を付けてやる。
シャワーの音が止んで、部屋の扉が静かに開いた。
起こさないよう配慮しているのだろう。
普段から扉の開け閉めは丁寧なやつだが、パタリとも音をさせやがらねぇ。
風の音が聞こえた程度だ。
ベッドの頭側に回り、イージーチェアに腰を下ろした気配がした。
髪を撫でられた。
前髪をよけて、……額にキスされた…。
オイ待て待て、なにしてやがるんだこいつは、人が寝てる間に。
指先で、頬を撫ぜる。
くすぐったい。むずむずする。
耐えられなくなって、手首をガッと掴んで止めた。ビクリと驚いた手が、慌てて引こうとする。
「逃げんなよ、クソガキ」
はぁ…と、小さなため息が聞こえた。
「また、そんな話し方をして…」
「誰の所為だと思ってやがる」
「…また、私の所為か」
「他に誰がいんだよ」
「寝たふりまでして…」
「寝たふりでもしねーと、てめぇは寄ってこねーじゃねーか」
「まったく、ああ言えばこう言う」
「………」
その呆れた様子に、胸がイラァッと焼けるように痛んだ。
その顔面を殴ってやろうと拳を突き出すと、掌で簡単に押さえられる。
「殴られろ」
「殴られたら痛いだろう」
こいつは……っ。
勝手に襲ってきたかと思えば、途中でほっぽりだして逃げて、ごめんなさいも無しで、人のこと散々避けやがって……。
一発くらい殴らせろ、マジで!
「お前さ、なんなんだよ。俺がなんか悪いことしたか?なんもしてねーだろ!お前怒らせてもねーし、避けられる意味わかんねえっ!…なんでおでこにキスとかすんだよ!嫌いだから避けてんじゃねーのかよ!?」
「っ…! 待ってくれ、その、嫌いだからと言うのは…」
「嫌いだから離れてんだろ。嫌いだから無視するんだろ。嫌いだから、…俺がパジャマ着ててもお前、文句も言わねーじゃん……」
「嫌いなわけがないだろう」
「うそだ!もう別れるっ…!」
「別れる、とは……付き合ってもいないのに…」
「うるせー!もうお前となんか住んでやるか!!2階の空き事務所に引っ越す!もぉっ、お前なんか嫌いだあっ」
毛布に、頭からすっぽりくるまった。
もう嫌だ。なんで僕が振り回されなくちゃいけないんだ。なんでこんなに、悲しいんだよ。
涙が、止まらな───
「───っ!?」
なんでこいつは、…毛布の上から頭の位置、把握できてるんだよ……。
優しい手が、頭を撫ぜてくる。
この触られ方は、……キライじゃない。
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