165 / 211
5.翌朝
コーヒーの香りで目が覚めた。
サイドテーブルに、マグカップを置く音がした。
枕側に置いた椅子に、誰かが腰掛ける気配。
誰か、なんて、そんなの1人しかいない。
顔をそちらへ向けると、そいつは気付いて視線を合わせ、口元を弛ませた。
なんだ……、そのデレデレした顔は。
「おはよう」
おはよう、じゃねーよ。
テメェのしでかしたこと、まさか忘れたとは言わせねーぞ!?
「良く眠れたかい?」
お陰様で、テメェに無視されてたのとかテメェに避けられてたのとか、それに対する怒りは解消できたけどな……。
「昨夜は突然気を失ってしまうから」
ああ、それだよそれ。
「失神するほど気持ち良かっ…」
「馬鹿言ってんじゃねーぞ、勝手しやがってクソガキが!!」
「また君は…、何を怒っているのだ。まったく、気の短い」
雪光は呆れたように息を付き、頬に触れてくる。
「だから、触んなっつーの!」
その手を払いのけて、距離をとった。
慣れない体勢をとらされたせいで、身体のあちこちに痛みを覚える。
股関節が痛い。お尻が…痛い……。
一体、なんで許してしまったんだ僕は……。
いや、許したのか?許した覚えなんてないじゃないか。
だってあいつが、人のことフルパワーで押さえつけて、好きだとか言うから……
なんか、お風呂上がりでいい匂いしたし、キスだけなら受け止めてやろうかと……そう思っただけなのに、気付いたときにはなんかそう言うことになってて、力入んないし、逃がしてくれないし……
「……おまえがシーツ洗えよ、ばか」
雪光は笑いながら、仕方ない、と答えた。
ともだちにシェアしよう!