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5.翌朝

コーヒーの香りで目が覚めた。 サイドテーブルに、マグカップを置く音がした。 枕側に置いた椅子に、誰かが腰掛ける気配。 誰か、なんて、そんなの1人しかいない。 顔をそちらへ向けると、そいつは気付いて視線を合わせ、口元を弛ませた。 なんだ……、そのデレデレした顔は。 「おはよう」 おはよう、じゃねーよ。 テメェのしでかしたこと、まさか忘れたとは言わせねーぞ!? 「良く眠れたかい?」 お陰様で、テメェに無視されてたのとかテメェに避けられてたのとか、それに対する怒りは解消できたけどな……。 「昨夜は突然気を失ってしまうから」 ああ、それだよそれ。 「失神するほど気持ち良かっ…」 「馬鹿言ってんじゃねーぞ、勝手しやがってクソガキが!!」 「また君は…、何を怒っているのだ。まったく、気の短い」 雪光は呆れたように息を付き、頬に触れてくる。 「だから、触んなっつーの!」 その手を払いのけて、距離をとった。 慣れない体勢をとらされたせいで、身体のあちこちに痛みを覚える。 股関節が痛い。お尻が…痛い……。 一体、なんで許してしまったんだ僕は……。 いや、許したのか?許した覚えなんてないじゃないか。 だってあいつが、人のことフルパワーで押さえつけて、好きだとか言うから…… なんか、お風呂上がりでいい匂いしたし、キスだけなら受け止めてやろうかと……そう思っただけなのに、気付いたときにはなんかそう言うことになってて、力入んないし、逃がしてくれないし…… 「……おまえがシーツ洗えよ、ばか」 雪光は笑いながら、仕方ない、と答えた。

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