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6.君を選んだ1
秋だなあ…と、探偵事務所の窓から外を見下ろしながら思う。
日射しはすっかりその鋭さを隠し、道行く人々も真夏から初秋へとその装いを変えていた。
照りつける太陽の下、大量の汗をかきながら、僕が通る姿を見るためだけにただ待っていたあの人も…もう此処にはいない。
やっぱり秋は、苦手だ。秋は人をセンチメンタルに変える。
───こいつ以外の人間を。
「一条君、何をしている」
あれ以来、探偵はずっと機嫌がいい。
今も鼻歌でも飛び出しそうな顔をして、パソコンをカタカタやっていた。
一段落着いたのか、ノートパソコンのふたを閉める。
すかさず猫が、猫用クッションを鼻で押しやった。定位置のパソコンの上に置けと言っているのだろう。
探偵が無視をするので、代わりに動かしてやる。
猫はにゃーとも言わずに、当たり前のようにその上に収まった。
…まあ、な……。そういう奴らだよ。おまえら主人とペットは。
「風吹…」
おまえはおまえで、なんだその行動は。耳元で囁くんじゃねえ。ほっぺたヤラしく触んじゃねえ。俺の後ろに立つんじゃねえ!!
大体、こいつは………
「おまえ、全然僕の言うこと聞いてないじゃないか!」
「なんだね、藪から棒に」
「婚約者んとこ、帰れっつったろーが。僕だって出て行くって言ってんのに、なんで……なんでズルズルおまえといなきゃいけないんだよ……」
背中から抱き込まれ、そのまま探偵はマネージメントチェアに腰を落とした。
「私はもう───君を選んだ」
「勝手に選ぶな!」
「私がいなくなれば、泣く癖に」
泣かねーよ、と…。きっと数か月前の僕なら、心の底からそう言えたのに……。
急に言葉が出てこなくなって、胸に回された腕をぎゅっと抱きしめた。
「……君は、黙って私に抱きしめられていればいいのだ」
滅茶苦茶な言い分だ。
なのに、何も考えずにそうされるのが一番なんじゃ…なんて……。
そう思うのが正しいと感じさせる声音で囁くから……。
このまま身を委ねたくなって、だけどそれを否定する心の声と、警鐘が聞こえて、頭の中がこんがらがって……。
なんでこんなに、男のことで悩んでんだよ、僕は………。
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