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7.君を選んだ2
「……雪光、それでも僕は、やっぱり、おまえは…」
「ああ、わかった。もう面倒だ」
「っ…またっ!おまえはすぐそーやって面倒とかっ!」
なんなんだこいつのこの面倒臭がりは。
いつも面倒だ面倒だって、なんでもかんでもすっ飛ばしたりやらなかったり。
「今度は何が面倒なんだよ!」
「一条君、外泊の用意をしてき給え」
さっきまで、大切にぎゅってされてたかと思うんだが。
椅子からポーンと乱暴に放り出されて、床に強かお尻をぶつけた。
ばかっ!おまっ、昨日も……!
ちょっとは慣れたとはいえ、やっぱりまだヒリヒリすんだからな!
それなのに、床にぶつけさせるとか、お前……!
痛むところを擦りながら立ち上がると、何をしている早くして来いと急かされる。
「そんな風に潤んだ目で見つめて……私を誘っているのか?」
「睨んでんだよ!」
「そうか。私の旅行用のキャリーがあるから、君の荷物もそれに入れればいい」
「ってことは、おまえの用意も僕がするんだな」
「一緒に住んでいると何処に何があるか分かるから便利だろう」
「便利じゃねーよ!」
そもそも自分の分はテメェでやれよ!
事務所の入り口ドアを乱暴に開けると、探偵に呼び止められる。
「一条君、1泊2日で用意をするように」
「了解!」
更に乱暴にドアを閉めた。
きっと探偵は、事務所の雑務や締め作業やらがあったりするんだろう。
仕方ない、あいつの分も用意してやるか……。
甘い、よなぁ…と思いつつ、階段を上る。
なんだっけ、僕、一体何を怒ってたんだっけ。
あいつの態度がコロコロ変わるから、もう良く分からない。
ああ、詩子ちゃんにはちゃんと知らせておかないと。猫の世話もお願いしないとだし。
ポケットからスマートフォンを取り出して、メールアプリを立ち上げた。
高虎と葵君にも、出掛けますって打っとかなきゃかな。
…って、突然外泊って一体、何処へ行くつもりだよあいつは。
玄関を開けて、ため息をつく。
また何かを誤魔化そうとしているのか、それとも言葉で伝えるのが面倒で、どこかへ連れて行こうとしているのか。
あんな風に乱暴に放り出されて、好かれているのか懐かれているのかさえ、怪しく思えてきた。
それに僕はあいつが───自分があいつのことを見捨てられないからって、それだけの理由で受け入れちゃってるんじゃないだろうかって……。
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