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8. 巡り会わせ1
董子さんは、白い百合が好きだったのだそうだ。
カサブランカの花束を持って、小高い丘の墓園を訪れていた。
見慣れない十字架の墓石に、彼女がキリスト教徒だったことを知る。
そして、もうこの世に存在しないことを。
そんな事なら、早く言えばいいのに。
彼女の元に早く帰れなんて、知らないとは言え、僕は酷いことを言ってしまった。
雪光の言った「追うつもりでいた」という言葉。あれは、つまりはそういうことだったのだろう。
「一条君。君にとって死ぬ、とは…どういうことだろうか」
キリスト教でも、墓石に手を合わせるものなのだろうか。
分からないけれど、最後にもう一度手を合わせてから、お墓へ背を向けた。
「死ぬ…こと……。悲しいことだと思うよ。僕は、少しでも関わった人が亡くなられたら悲しい。君に言ったら怒られるかもしれないけど、…坂田さんが死んだって聞いた時も、悲しいと思ったんだ」
「怒りはしない。それが…君なのだろう」
いつもよりも少しだけ頼りない背中を追いかける。
「私にとって、死ぬと言うことは───無くなると同じことだった。無に帰ることだと知った」
立ち止まって手を差し出すから、その振り返らない背中に応えてあげる。
夏よりもだいぶ涼しくなった風が、頬を撫でて駆け抜けていく。
体温の低いひんやりとした手に、僕の温もりが伝わるよう……きゅっと強く握りしめた。
「董子は、殺されたのだよ」
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