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11.会いたい2
「それにしても、君が文句も言わずに私と2人で風呂に入る日が来るとは」
「変な言い方すんなよ。大浴場に一緒に入っただけだろ」
「早い時間だったせいか、人が少なくて幸いだった」
「ああ、人多いと気ぃ遣うもんな」
「いや、他の男に君のあられもない姿を見られるのは…」
「お前…、そろそろ殴るからな!」
気分だけじゃなく、頭も浮かれてるようだな……。
怒りを抑えて、……それでもこいつが楽しそうなのは、珍しくて。
別に気分の悪いことでもない。
しょうがない。この男に甘い僕も悪い。
「大体さ、普通は僕の裸なんて見たって、なんとも思わないだろ。黒羽みたいな奴なら兎も角」
「何を言っている。君は余りにも脳天気すぎる」
「いや、頭がお天気なの、おまえの方だから…」
そんな、不本意、みたいな顔しても実際そうなんだから仕方ないだろ。
「喉乾いたから、なんか買って帰ろ」
暖簾の外に自販機を見つけて、財布を取り出す。
冷たいの、何があるかな?
隣の自販機には1人の細身の男の人。
あっちは、ビールの自販機か。
ビールもいいけど、お酒は夕食の時に出るって言うし、まだ早い時間だし。
「雪光はなに飲みたい?」
「えっ…?」
隣の人が小さく声をあげる。
間違ったボタンでも押してしまったのだろうか。
「僕はー…お風呂上がりだから、スポーツドリンクにしとこうかな。後で部屋の露天にも入るし」
「ああ、ならば3本買っておこう」
「あ、だめだめ。スポドリ飲み過ぎるとお腹ゆるくなっちゃうよ。だから、2人で2ほ…」
「風吹さん…?」
隣の自販機側から、声がした。
「えっ…?」
振り返ると、ビニール袋にビール缶を大量に入れた、
「……葵君!?」
───が、立っている。
「あの…、風吹さんが、何故ここに…?」
「えー…?僕は、青山と一緒に…」
動揺のあまり、見れば分かるであろうことを説明してしまう。
「葵君こそ…」
「いえ、私は…」
「葵く~ん!」
葵君の声に被って、彼を呼ぶ甘えた声が聞こえてきた。
葵君がそちらを向くと、大きく手を振って早足で近づいてくる。
「やっぱり心配で来ちゃった」
女性連れ、と言うことは……
「婚前旅行?」
「違いますっ!」
そんなに目一杯否定しなくても…。
大丈夫、僕らは大人だから、ちゃんと生温かい目で見守ってあげるよ。
帰ったら正さんにも教えてあげよ♪
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