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12.会いたい3

「風吹、我々はお邪魔なようだ。早々に退散しよう」 探偵が、代わりに買ってくれていたドリンクを持って歩を進めるから、手を振りながら後を追う。 「葵君、また都内でね」 「違うんです、風吹さん!本当に!」 「はいはい」 気にしなくていいのにな…。 葵君の連れの女性に、すれ違いにぺこりと頭を下げた。 彼女は少し不思議そうに僕の顔をじっと見る。 綺麗な人だな。さすが葵君の彼女。 どことなく顔立ちが似てて、並ぶと絵になる。 あれ…?でも……。なんだろう…。 どこかで見たことのある顔、みたいだ。 まあ、葵君の恋人だったらきっと都内の人だろうし、もしかしたらどこかで会ったことも……… 「───フブキ!?」 「えっ!?」 名前を呼ばれた。女性の声で。 振り返ると、葵君の彼女が僕を見て、 「やっぱフブキだ!やっべー、変わってないとか!!超若ェんだけど!超かわいーんだけど!」 ……なんだ!? 一瞬前と、雰囲気がガラリと変わった!? 僕、指差して思いっきり笑われてるんだけど!? って言うか、この声─── 「ナナ!?」 「あ、今頃思い出してやんの。フブキちょーばっかでー!」 見た目は綺麗なんだけど、この下品なしゃべり方、笑い方。 走ってた頃のチームのメンバー、ナナだ。 「なんで、ナナが葵君と…!?」 「つーか、葵君の話してたの、やっぱフブキのことだったんだ。珍しい名前だからもしやと思ってたんだけどさぁ」 「葵君!? 僕のことナナになんて…!?」 「いーじゃんいーじゃん、そんなことは。それより……なに髪色フツーにしてんの!自分のこと僕とか言ってんの!? 誰だよおめー坊ちゃんかよ、ちょーウケんのっ」 「なっ…!? 勝手にウケてんじゃねーよ!大人になったの!俺にも色々あんだよ!ナナこそ、なんだよアレ。葵く~ん、ってのは」 「っせーな、いーんだよ、葵君はあたしの王子様なんだから」 「王子様って……、ナナがお姫様ってガラかよ。つーか、葵君の名字、名波だぞ?おまえ結婚したら、名波ナナになっちまうじゃん」 「はっは~、ばかめ」 ナナは自分よりも背の高い僕を見下ろすように胸を張ると、笑いながら指を胸に突きつけた。 「確かに葵君は理想の旦那様像だけど、理想そのものの弟君(おとうとぎみ)でもあるんだよ」 「え…?」 「あたしは葵君のお姉さまで、既に名字は名波だっつーの」 「えっ…えっ!?だって、葵君のお父さん、公安部長だぞ!? おまえ、グレてたじゃん!」 あぁっ、違う!グレてた訳じゃなくて、僕は走ってただけだけども! 「父さんはあたしには甘いんだ」 「名波…ナナ…?」 「ばーか、んなわけあるか。名波香蓮。カレンってのはガラじゃねーから、名字の方で名乗ってたんだよ」 「ほんとだ。ガラじゃない」 「んのヤロー、人に言われっと腹立つんだっつーの!」

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