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14. 認めるよ1
ナナは、チヒロを守りたかったのだ。
雪光と葵君が僕を守ってくれたのと同じように。
会えば、僕らは互いに傷つくのかも知れない。
だけど、こんなに近くにいると知って、僕たちは会わないわけにはいかなかった。
僕たちはまだ、互いを忘れては居なかった。
或は、僕がそう思いたかっただけなのかもしれないけれど。
ナナに連れてこられたチヒロと2人、サロンのテーブルで向かい合う。
少し離れた席に、雪光と葵君、ナナと、連れのタケが座ってこちらを伺っていた。
そう、ナナのもう一人の友達とは、僕の悪友でもあるタケこと市倉武史だったのだ。
付き合ってるのかと訊いたら、即行2人掛かりで否定された。葵君が苦笑いしていたことからも、それは確かな申告なのだろう。
そう言えば、昔からあの2人は仲は良かったけど、お互い異性とは見ていなかったっけ。
当時は僕とチヒロが付き合ってたから、それぞれのツレのタケとナナも、4人で良くつるんでは走ってた。
「久し振り、チヒロ」
変な感じだ。チヒロが、大人になってる。
髪も大分伸びたね。
あの頃は、セミロングって言うんだっけ。肩下くらいの髪を、ヘルメットの下から靡かせてた。
陽の光に、電灯の光に、輝く髪がいつも眩しくて……
「いやー、無いわー」
唐突に、チヒロが笑うものだからドキリとする。
無い、ってことは、本当は僕になんて会いたくなかったのだろうか……?
チヒロにとっては、突然消えた元恋人など、思い出すにも値しなかったのかもしれない。
「ごめん……」
「ほんっと、ごめんだよ。フブキさぁ、相変わらず若くて可愛いとか、なんの嫌がらせだよってー話」
「……はぁっ!?」
「ちょっと!あたしばっか年老いてんですけどー!何コレちょーっ可愛い!持って帰ってペットにしてえっ」
「………」
そうだ。思い出の中で美しく補整かかってたけど、元々チヒロはこういうヤツだった。
初めて会ったときも、「かわいーっ、あんた中坊?バイク乗れんの?」って、ガキ扱いされたんだっけ。
まあ実際に向こうのが1歳上だったわけだけど。
思い出補整、こえぇ。
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