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15.認めるよ2
「で、今なにしてんの?人のことほっといてさ、修行してたにしちゃあ、その髪……板前とは程遠いよね」
頭をくしゃっとかき回された。
そうそう、されてたされてた、弟扱い。
「…うん。じーちゃんが入院して店も閉めちゃったから。今は父方のばあちゃんの跡継いで、青山でビルの管理人」
「うーおっ、セレブリティ~」
「セレブじゃないよ。ビルって言っても、三階建ての小さいとこ。チヒロこそ、子供ほってこんなとこ来てていいの?」
口を開いてから始終饒舌だったチヒロが、ふいに口を閉ざした。
「チヒロ…?」
手を伸ばして、その髪に触れようとした瞬間、ガバッと顔を上げる。
「いやー、実は、子供、……」
唇を震わせて、少し俯いたかと思うと、口元を隠しながら再び顔を上げる。
その顔には、笑みを浮かべて。
───知ってる。この顔は……
「子供、死んじゃったんだぁ……」
泣くのを堪えているときの、チヒロの顔だ。
見えないところで、唇を噛んでる。
眉毛がへの字にならないよう、必死に踏ん張ってる。
涙が溢れないよう、手をきつく握りしめてる。
僕の前でなら泣いてもいいのに、絶対に涙を見せない意地っ張り。
「…チヒロ、何があったのか、訊いてもいい?」
「聞いても、楽しくないよ」
「ん。……でも、つらいだろ」
「……うん…。辛い…なぁ……」
チヒロは口に当てていた手を、目元を覆い隠すように上へとずらした。
「……あたしがさ、殺したようなものなんだ」
黙って、チヒロの言葉を聞く。
ここで僕が頷いても、違うと言っても、それは心に届く言葉にはならないから。
「旦那はさ、気が向いたときだけ子供の面倒を見るようなヤツでね、……あの子が3歳の時」
チヒロは少しだけ考えて、あぁ、もう5年も前になるんだ、と呟く。
「中学の同窓会のハガキが届いたんだ。あたし、行くなら連れてくし、そうじゃなければ行かないって言ったのね。でも、珍しく旦那が面倒見るって言ってくれて…。でも信用できないから、いいっていったの。行くの止めるって。そしたら、俺に任せられないのかとかってキレられて、喧嘩になって、子供まで殴られそうになって…」
なん…だよ、それ。チヒロ、全然しあわせじゃなかったんじゃん。
僕は、チヒロがしあわせならって…。
結婚して、子供も産まれて、きっとしあわせに暮らしてるって、そう………
あの時カラスが言ってたのは、こういう事だったのか……。
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