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17. 終止符

手を振って、それぞれの部屋へ戻る。 別れ際、チヒロが耳元で囁いた。 「フブキ、道は厳しいと思うけど、しあわせにね」 「…なに?厳しいって」 「いや、だってさ…、ツレのお兄さん、あたしに向ける視線超鋭すぎ。ヤバいって、あれソッコーバレるって」 「…お兄さんじゃなくて、年下な。葵君と同い年」 否定も肯定もせずに年齢だけ告げると、チヒロは葵君と探偵とを見比べて、ブハッと派手に吹き出した。 「やべーっ、超老けてんだけど」 頷かず、曖昧にして別れたけれど、きっと彼女は確信してる。 僕が無防備にすべてを預けているこいつのことを、かつての自分と同じ立場に居るものと。 チヒロには今、付き合っている人がいるらしい。 お互いにバツイチで相手が5歳年上、小学生の息子が居るそうだ。 どうにもその子と打ち解けきれなくて、来月の誕生日に何を贈ろうか迷っているという。 男性陣は子供の頃、何を貰って嬉しかった?と訊かれて、僕はスポーツチャリ、と答えた。 タケは、新しいゲーム。 葵君は六法全書、雪光は株券。 いやー、葵君と探偵さんのは参考になんないなぁ、とチヒロは口を大きく開けて笑った。 確かに、僕らとは様々なことが違いすぎる。 こんな2人と時を共に過ごすことになるなんて……. 巡り会わせっていうものは、本当に不思議なものだと思った。 そして僕は、漸く若かった頃の恋に、終止符を打つことが出来た。

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