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20.腑抜けた顔2
従業員が旅館の前まで運んできてくれた車に乗り込む。
青山家所有の車らしい。
センチュリーと言う車種で、ボディカラーは神威と言うらしい。謎のカラー名だ。
普段は運転手付きの車だから、後部座席の方が心地良いらしいのだけれど。
「別にいいよ。車内広いし、おまえの隣、嫌じゃないし」
そう言って助手席に乗り込んだのが、昨日のこと。
雪光は、白い手袋をしてハンドルを握る。
運転手さんが普段からそうしているからと、雪光なりの礼儀らしい。
白手袋をしていると、なんだか高虎みたいだ。
高虎も雪光と同じ、品や雰囲気があるよな、とふと思う。
いつも敬語で恭しいからザ・執事って感じだけど、どこぞの御曹司って紹介されたら疑うことなくまるっと信じてしまうだろう。
ってーか、この男も……
前を見て、背筋正しく運転する雪光をこっそり見つめる。
運転手とか、超高級っぽい車とか、一体何者なんだよ、青山家ってのは。
突然貸してくれって言ってこんなよさげな車を借りられるとか、他に少なくとももう一台は車があるってことだろうし、それだってきっと高級車なんだろう。
詩子ちゃんの短大も超お嬢様学校だし、こいつの大学…は、そうでもないか。
幼なじみの婚約者がキリスト教信者で、綺麗な十字架の墓石とか。
広かったなぁ、墓園。
一つ一つのお墓の敷地が広かった。
うちの先祖のお墓は、確かに広~い霊園だけど、そこにトントントンって規則正しく同じ形の墓石が並べられた団地みたいなお墓で、一応東京都とは名乗っているけれど、都下のはずれの山奥の…って感じで……。
どちらがどうって訳じゃなくて、比べたくなくてもつい比べてしまう、庶民の性。
ああ、じいちゃんの所にもたまには顔を出さなきゃなぁ。
お墓で思い出したって言ったら怒られそうだけど。
赤信号で車が停まる。
雪光はスマートフォンを取り出して、少し不機嫌な顔をした。
「どうした?」
直ぐに画面を消すと、信号に向き直る。
「黒羽からだ」
黒羽───カラスと呼ばれる、探偵の情報屋だ。
仕事の話なら、僕の出る幕はない。
そう思ったのに。
「これから事務所に来るそうだ」
「これからって…、僕たちまだ、都内にいないのに」
「あれのことだ。戻った頃に合わせてやってくるのだろう」
情報屋ってのは、そんな情報まで手に入れられるものなのだろうか?
位置情報と、車の速度、道の混み具合とかで計算するのかな。
……位置情報を把握されてるかもなんて、それはそれで引いてしまうけど。
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