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21.腑抜けた顔3
高速に入り、車のスピードをぐんと上げてから雪光が口を開いた。
「一条君、ランチはどうする?」
なんか、……あんなことしておいて、まだ「一条君」なんだな。
「変なの…」
思わず口に出してしまうと、雪光は首を傾げて疑問を顔に表す。
「いや。…青山の好きなところでいいよ」
苗字呼びには苗字呼びでおかえし。
すると雪光は、至極不満げな顔になる。
「それともうちで食べる?帰ってからでよければ作るけど」
知らんぷりで自炊を提案すると、雪光は小さく首を横に振った。
「いや。折角だから、サービスエリアで食べていこう」
「っ……うん!サービスエリア行こ!」
雪光がサービスエリアに寄ろうなんて、トイレ休憩以外で言うとは思わなかった。
2人で、うちで食べるおみやげ見たり、景色見たり、ご飯食べたり。きっと楽しい。
「雪光、僕B級グルメとか食べたい!外の屋台みたいなとこで売ってるやつ、車の中で食べよう?…あ、でも車で食べたら、食べこぼしで汚しちゃうかな」
「後部座席なら少しくらい汚れても構わないよ。汚れに強いコーティングをされているから、こぼしてもすぐに拭けば問題ない」
「じゃあ、停めたまんま2人で食べよ。あ!ご当地ソフトとかあるかな?」
「冷たいものはやめておき給え。トイレに行きたくなっても、都心に入ればサービスエリアも無くなってしまう」
「じゃあ、雪光と半分こ!」
「わかったよ、風吹」
漸く名前を呼んだ。
わざわざ苗字で呼び返したんだぞ。悟れよ。
途中から忘れて、雪光って呼んでた気もするけど…。
「えへへ、楽しいな」
「なんだね、ニヤニヤと腑抜けた顔を」
「ニコニコって言えよ!」
董子さんのお墓を参って、チヒロと会って話をして───
この時僕は、すっかり2人ともに過去の恋を清算したと、そう思い込んでいたんだ。
この後、カラスがどんな情報を持ってくるのかなんて、欠片も考えたりせずに。
運転している雪光の横顔を、かっこいいなぁ…なんて、暢気に眺めていたんだ。
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