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24. 過去の真実1

仕事の話ならと1人部屋に帰ろうとしたら、黒羽に呼び止められた。 お姫様にとっておきの情報を持ってきたんだ、と少し目を伏せて笑った。 だから二人と一緒に事務所へ入り、立ち上がりやすいよう座面の高い車付きの椅子を引き寄せて座った。 「情報って?」 勿体ぶる黒羽に問いかけて急かす。 「うん……」 いつものノートブックパソコンは鞄の中のようだ。 難しい話でもないだろうに、黒羽は渋って中々口を開かない。 そして漸く見つけた話し出しは、一人の男の名前だった。 「姫君はさ、…八雲二郎って、憶えてる?」 「ヤクモジロウ…?」 誰だろう?古臭い名前だ。 じいちゃんの店にいた頃の常連さん、とかだろうか…? 首を傾げると、黒羽はじゃあ、とその男の略称を口にした。 「クモジ、って言った方が分かる?」 クモジ……?聞いたことがあるような…。 記憶を辿って、クモジと言う男の存在を探す。 その短縮した呼び方は、チームにいた頃か? クモジ…クモジ…… 「あっ!」 思い出した! 「あのヘンタイだ!」 口に出してしまってから、しまったと思う。 雪光の目が、鋭く尖る。 「……いや、ヘンタイは言い過ぎた」 アイツを変態と言ってしまっては、ここに居る全員が、変態だという事になってしまう。 だけどその時は確かに、変態としか思えなかったのだ。 今ならば少しは理解できる。 クモジは恐らく、ゲイだったのだろう。 今なら僕も、ゲイやバイセクシャルが変態じゃないってことも、仮令(たとえ)そのどちらでもなくても同性を愛してしまうこともあるんだって、身を以って理解してる。 けれど、そんな過ぎた話を、この男の前で振ってくるなんて……。 「チームから抜けるちょっと前かな。好きだって言われて、いきなり…キスされて、さ」 …ヤバい。雪光の顔が、夜叉化してる……。 「けど、そんだけだぞ。すぐ股間蹴りまくって逃げたし」 「その男が、今更どうだと言うのだ…?」 ああ、ほら、ばかっ!聞いたこともないような、地の底から響くような声ってのになってるじゃないか! ほんとになんで今更その話題持ち込んだ、黒羽!! 「そのクモジが、ね。……チヒロさんの元亭主ってヤツで」 「……は!?えっ?…だってアイツ、男が好きなんだろ?…じゃなくて、両刀だったってこと…?」 ……いや、両刀とかじゃなくて……そうじゃなくて…… 「オレも…さ、姫君を泣かせたいわけじゃなくて、チヒロさん側を擁護したいな、とか思いまして…」 「え……」 「アンタが悪いんじゃない。ただ、こっ酷くフラレた腹いせだったことは、否めない」 「どう言う…ことだ……?」 そして黒羽が口にしたことは、僕の心を地の底に落とすに、充分過ぎる言葉だった。 「チヒロさんは浮気なんかしてアンタを裏切ったんじゃない。クモジに無理矢理、……襲われたんだ」 「………チヒ…ロ…」

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