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25. ケリつけて来い1
「それにしてもさー」
一瞬にして雰囲気が切り替わったように、黒羽が明るい声で喋るから面食らう。
「センセーとお姫様、いつからそんな親密な関係になっちゃったのさぁ。オレ、ぜ~んぜん聞いてないよ」
「お前に話す必要が何処にある」
返して雪光も普段通りのトーンで話すから、きっと僕に持ってきた情報の話は、もう終わったという事なのだろう。
だったら僕は、ここには用無しで、2人から離れなければいけないのだけれど……。
2人共、お茶とか、飲むかな?
もう少し、ここに居たい。
……いや。
もう少しだけ、こうして抱きしめていて欲しい…なんて……。
「そんな事より、仕事の話で来たのだろう?」
そうは言いながらも雪光も、背中に回された手に力を込めてくれる。
「えー?いーじゃん、もう少しくらい旅行の話、」
その腕の力にホッとして、胸に頬を擦りつけた。
「聞かせてよ。向こうで会ったんでしょ、葵ちゃんと。それから、名波姉 と、タケさんに、チヒロさん」
何処に行った。何時頃帰る。
それだけじゃない。
向こうでの行動も、この情報屋には筒抜けだった、ってことか。
さすが、優秀な探偵の優秀な情報源だ。
「……それが何か?」
雪光の声は低く、室内の空気を不機嫌に揺らす。
「いや。向こうが4人なら、センセーも連れてってくれりゃー良かったのに、って思って…さ」
「お前と3人でか?まさかそんなことをする筈もないだろう。もう少し考えて物を言え」
「いや、3人じゃなくて4人なら、2-2で部屋も取れただろ。二人の夜のお邪魔はしないよ。オレと透也は、隣の部屋で構わない」
「とおや……?」
意図せずに吐き出された呟きは、広い事務所に存外大きく響き渡った。
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