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30.閑話2

いつの間に眠ってしまったのだろう。 髪を撫でられて、雪光が帰ってきたことに気付いた。 「あ……おかえり…」 ぼんやりとした頭で隣りに座った雪光を見上げた。 「ただいま。風吹、こんなところで寝たら風邪をひいてしまう」 「ん?……うー…」 「……仕方が無い。温めてあげるからこちらへおいで」 「んー……」 その呆れたような笑みにぼーっと吸い寄せられそうになって、 「…あっ、ちがう!」 頭をプルプルと振って、覚醒した。 「雪光、喉乾いただろ? 何か飲む?」 雪光は、途端少し不機嫌になって、小さく息を吐き出す。 「ご飯炊けるまでまだ掛かるんだけど、もうちょっとしたらお風呂の方は溜まるからさ、先にお風呂入っちゃう?」 「あ───」 後で構わない、と言おうとしたのだろうか。それとも別の言葉を? だけど、そんなのはなんだって構わない。 雪光の返事を遮って、言葉をねじ込んだ。 「ご飯の前に、一緒に入る?」 雪光の口が、開いたまま固まった。 直後、驚くような早口と勢いで腕を掴まれた。 「すぐに入ろう!」 「だから、まだ溜まってないんだって」 「そんなものは、入りながら溜めればいい!」 「……なんでそんなに必死なんだよ…」 可笑しいのと呆れたのと半分半分、思わず吹き出すと、 「君の気が変わっては困るからだ」 心外、当たり前だろうと言いたげな顔をして、そう返された。 「僕から誘ってるんだぞ。変わらないっての」 「いや、しかし…」 確かに、家では一緒に入らないって言ったもんな。疑う気持ちも分からなくない。 なら─── 雪光の頬に右手を添えて、反対のほっぺに唇を当てる。 「一緒に入ろうな、雪光」 「っ、───風吹!」 「あ、でもまだ腰痛いから、そういうのは無しだぞ」 腰をさすりながら断りを入れると、雪光は暫く固まったのち、広げた腕をそっと元に戻した。

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