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32. 更科邸1

いつかも訪れた更科邸─── 今そこは春子さんたちの居所では無い。 もうそこには更科家の血を引いた者は、春子さんの兄の誠一氏しか残ってはいなかった。 当主・更科重行、後妻・更科美櫻、次女・更科桜子───凡てが何処の血かも知れない、更科家は他人に乗っ取られている。だが、それだけではない。 移動の車を待つ間に、雪光はそんな言葉を零した。 移動の車、と言って良いのだろうか。 雪光の呼び出した、高虎所有の車だ。 車は僕たちと春子さんを乗せ、高虎の運転で更科邸へと進入した。 一条ビルの前に着けた車の後部座席に春子さんが座っているのを見て、雪光は一瞬顔を顰めた。 しかし、そこは間違いなく春子さんの指定席だ。 えーと…、これは、どうしたらいいんだ…? 僕が助手席に座ると、雪光が春子さんと並ぶことになる。 僕が後部座席に座ると、雪光は高虎と並ぶことになる。 それはどちらにしろお互い気まずいだろうし、こいつは僕と並んで座りたいんだろうし……。 後部座席の真ん中に僕が座って、春子さんの逆側に雪光を座らせる? 迷って躊躇していると、運転席から出てきた高虎が後部座席のドアを開いた。そこから春子さんが降り立ち、次に高虎は助手席のドアを開ける。 「私は助手席に乗りますので、風吹様と探偵様で後部座席をお使いください」 春子さんは僕たちに向かって微笑むと、助手席に乗り込んでいった。 「すみませんっ、ありがとうございます!」 頭を下げると、いいえ、と返ってきた。 「道すがら中川と話しておりましたの。きっと探偵様は、風吹様の隣席以外ではご納得されないでしょうと」 「……ほんと、すみません」 うちの探偵が、分かり易く我儘でごめんなさい…。 恥ずかしいなぁ、もう…。 ほら、早く乗りなさい、と急かせると、探偵は当たり前だという顔をして席に座って、シートベルトを引っ張った。

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