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35.更科家の過去2

「さて、ここに更科家の血を引いた正式な更科家の人間が何人いるか、お分かりですか?更科誠一さん」 探偵に尋ねられ、誠一氏は部屋の中を見回し、答える。 「2人だろう」 「正解です」 「巫山戯(ふざけ)ているのか!?」 探偵におちょくられたと感じたのか、誠一氏は声を荒立てる。 だけど僕は知っている。 探偵はこういう時、必要のないことは言葉にしないんだ。 だから、「2人」が正解であることにも、何か意味があるはず。 「もう勘の良い方はお気づきでしょうか。ねえ、更科春子さん、そして執事殿」 春子さんは探偵の言葉を受けて、「ですが…」と視線を泳がせた。すぐ脇に控える高虎を見上げて、そして視点を合わせる。 高虎は黙ったまま探偵を見つめていた。 2人にはもう、真相が見えているのかもしれない。 「更科桜子さん。ご自身でもお分かりでしょう。貴女は偽物(イミテーション)の令嬢だ」 桜子が悔しそうにギリ、と歯を食いしばった。 「そして、更科春子さんこそが百合子夫人の血を引くたった一人の娘。本物(ジェニュイン)です」 その春子さんの視線は、今は探偵の姿を捉えていた。 これから聞かされる真相を、静かな眼差しで待っていた。 「一方で、百合子夫人の先に産み落とした男児はどこへ消えたか」 「だから俺は、美櫻の元で育てられ───」 「中川恭敬に預けられ菜の花園で育った男児は、やがて中川恭敬に引き取られ、今は更科春子さんの執事として生きている」 「えっ……?」 ───高虎の…顔を見上げる…… 高虎は僕と目が合うと、白手袋の手で額を押さえ、フゥ───と長く息を吐きだした。 「探偵殿、根拠は一体?」 「証拠なら後ほど、幾らでも」 そりゃあ、青山の仕事だ。幾らでも───な証拠を掴んでから、此処へ来たのだろう。 「じゃあ……」 何処からか、小さな声が聞こえた。 部屋の中を見渡す。 誠一氏が、虚ろな目で探偵を見ていた。 「じゃあ俺は……なんだってんだ……」 「貴方は、更科重行氏の息子ですよ。正真正銘、更科重行と美櫻との間に出来た、100%そちらの桜子さんのお兄さんですよ」 そうか…。芙由子夫人が亡くなったことに乗じて、重行氏は自分と美櫻さんとの子供を自分と百合子夫人との子供だと偽り、家へ招き入れたと言うことなのか。 「じゃあ高虎は、春子さんと同じように百合子夫人と重行氏の子供なの?」 「その認識が既に事実を歪めているのだよ、風吹」 こういう時はお決まりの「一条君」だったのに、探偵は僕を下の名前で呼ぶと、馬鹿にするのではなくただ間違いを正す為だけに僕の言葉を否定した。 「更科春子さんも執事殿───いや、中川高虎氏も、更科百合子と更科重行の子ではない。更科百合子と───中川恭敬氏の間に出来た子なのです」

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