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38.更科家の歴史1
「探偵殿、何故このような事を?」
沈黙を破って、高虎が声を発した。
雪光は、「ああ、喉が渇いた」等と言いつつソファーへふんぞり返って、僕たちにも座るようにと促す。
「春子さんたちを在るべき場所へ帰してくれようとしたんだよな」
手を引かれて隣に座ると、雪光は、真逆 …と僕の言葉を鼻で笑った。
そして、訊ねた高虎や僕ではなく、顔を蒼白にした春子さんに視線を向けた。
「更科春子さん、例えばお祖母様から、更科家の歴史について、何か聞かされてはいませんか?」
春子さんは、探偵の言葉にすぐに何か思い当ったようで、小さく「はい」と頷いた。
「それが理由ですよ」
それだけ言うと、話は終わったとでも言うように、雪光は僕の背中に手を回して起立を促しながら立ち上がる。
──まったく。こいつは……
面倒臭がりもここまで来ると、罪悪だな。
凡てを分かっているのは雪光だけで、もしかしたら春子さんすら、その理由が理解できていないかもしれない。
「雪光、まだ僕は帰らないぞ」
ソファーへ座りなおすと、何を我儘な、と呆れたように見下ろされた。
だから僕は探偵を見上げて、いつもこいつがやっているようにソファーに背を預けてふんぞり返って座る。
「僕にも分かるように説明しろ」
「君に?分かるように?」
春子さんに言った言葉については何も分からないけれど、その表情の意味はよーっく分かるぞ。
話したところで君に理解が出来るのか?
そんな風に思って、馬鹿にしてるんだろう。
「雪光。説明しないと、一週間おやつ抜き」
「……分かったよ」
観念したように息を吐きだし、雪光は僕の隣に腰を下ろした。
雪光に言うことを聞かせるには、何よりこの言葉が効果的だ。
「昭和22年5月3日、日本国憲法の施行と共に、華族制度が廃止された」
探偵がまた、遠回しに話を始めた。
華族って、昔の日本の貴族、みたいなものだよな…確か。
余り記憶のない歴史の授業を思い出そうとしていると、
「明治2年6月17日、従来の身分制度である公卿・諸侯の称を廃し、これらの家は華族となることが定められた」
静かに淡々と、近代の歴史講座が始まった。
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