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39.更科家の歴史2

「11月20日、旧諸侯の華族は原則東京に住居することが定められた。 明治17年7月7日、華族令の制定により、華族となった家の当主は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の五階の爵位に叙されることとなる」 華族ってやっぱり、昔の日本の貴族ってとこだった。 僕の記憶力も伊達じゃない。 「さて、更科邸も含まれる、この地域を治めていた華族を、───更科さん。ご存知ですか?」 探偵の問いかけに、春子さんは神妙な顔つきで頷く。 「はい。……青山侯爵家です」 「えっ…?」 青山って……青山!? 隣の雪光の顔を見るも、言わせた本人はいつも通りの涼しい顔で、なんという事はないとでも言うように、僕の頭を優しい手つきで一撫でした。 「先ほども申し上げたように、昭和22年5月3日に、華族制度は廃止している。しかし、地下では未だその統治は根深く息づいている。 警察も一声で動かせる程度にはね」 つまりお恥ずかしい話、と続け、雪光は喉の奥で小さく笑う。 「4月の事件で統治地域を荒らしたことを、父に叱られましてね」 「…………はあっ!?」 「土壌直しも出来ないようであれば探偵などやめてしまえと言うものですから、更科家を元の綺麗な血に戻して差し上げた、と言う訳です。言わばアフターケアですので、追加料金は頂きませんよ」 ………なにを…こいつは……善行を成したような善い表情を浮かべてやがる……。 「なに、お前……、お父さんに怒られたから、慌てて更科家立て直しに走ったっての…?」 「いや、父の怒りなどどうでもいい」 どうでもいいって、お前……… 雪光は、一気に疲れて項垂れた僕の肩を支えるように抱き寄せると、 「だって、探偵をやめさせられたら君と共に居られなくなるではないか」 甘えたな声を出して、髪に頬を摺り寄せた。 「………………はああぁぁ……」 もう、脱力。 文句を言ってやる気力も削がれた。 フッ、と息を吹きだす音が聞こえた。 何が可笑しいのか、堪え切れない様子で春子さんがくすくすと笑い出す。 「不本意ですが、私も本日から探偵様推しにさせて頂きます」 探偵推しってなんだ? 「ええ。それがいいでしょう。貴女の前の推しメンは、今や黒羽のもの」 「まあ!」 春子さんが口元で手を合わせて、目を輝かせた。 2人だけでなんか分かり合っててずるい。 と思えば、高虎も呆れたように溜息をついて、……2人の会話を理解している? 分かってないの、僕だけってこと!? 「うーーーっ」 訴えるように足をばたつかせていると、(おもむろ)に雪光が立ち上がった。 見上げると、何故か頭を撫でられる。 「君は更科さんと此処で待ってい給え。私はもう一仕事済ませてくる」 そして雪光は春子さんに僕のことを託すと、高虎を引き連れて部屋を出ていった。 ……風吹をお願いします、ってなんだ。お願いしますって。 僕の方が春子さんよりも年上だし、男なんだぞ。

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