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42.最終話-完-
高虎が車で送ってくれると言ったけれど遠慮して、並木通りを2人で歩いた。
一条ビルまで20分弱の長くはない道のり。
時折手が触れる微妙な距離で歩く男を見上げて、口を開く。
「ありがと、な。雪光」
「礼を言われるようなことはしていない」
今日だって、僕がどうしてもって誘ったから一緒に行ってくれたくせに、つっけんどんにそんな返事を寄越す。
「いいんだ。僕が勝手にお礼を言いたいだけ。だから、ありがとう」
「……君の為になるのなら、構わない」
「うん……」
愛されてるなぁ、僕。
脚の長さの異なる雪光と早足にならずに歩けているのも、
時折触れる手が手を撫でてキュン、としちゃうのも、
見下ろす瞳が穏やかで温かいのも、
きっと全部、雪光が僕のことを想っている証で、僕もこの男に心を委ねてる証拠。
「雪光……」
「なんだ?」
目を合わせた雪光の手を掴み、
「好きだよ」
何か返される前に、先に立って歩みを速めた。
顔は見られないよう、まっすぐに前を向いて。
だと言うのにこの男は急に大股になり、ほんの一歩で僕を追い越し、引っ張っていた筈が逆に前から引かれる形になる。
「早く帰ろう」
「えっ、なんで?」
「君が煽るからだ」
「えっ!? 僕、煽ってな……」
「舌を噛むと危ない。黙ってい給え」
一体どういう言い分なのか。
僕は何故か雪光の性的興奮を煽ったことにされ、引き摺られる様にして家まで連れ帰られた。
そして、もう無理だと訴えても意識を飛ばすまで散々啼かされ、本当の意味でも目が赤くなるまで泣かされた事は、また別の事件として。
-Fin-
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