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番外編 お仕置きはパーティーの後で

ジングルベルが聞こえる、クリスマスキャロルが流れる頃、なんて世間では言うけれど、僕の隣からはご機嫌な賛美歌の鼻歌が聞こえてくる。 高い綺麗な歌声の主は詩子ちゃん。真っ白でふわふわな綿雪みたいなコートを纏い、スキップ混じりに歩いている。 反対側の隣には、彼女の兄のムッツリ顔。 妹とは正反対に真っ黒いウールのコートは、僕が羽織れば地面にずってしまうロング丈で。 詩子ちゃんに負けずご機嫌な僕は、そんなヤツの姿を素直に格好良いなと見惚れながら、その肩に軽くコツンと頭をぶつけた。 ムッツリして見えたのは、こいつが無表情を語っていたからか、 それとも、決まっていた予定を大幅に狂わされたからか。 兎に角、特に機嫌が悪い訳じゃないってことは分かっていたけれど。 口元を緩ませると僕の愛しの探偵様は、お土産の入った袋を僕から取り上げ、空っぽになった手に革手袋の指を絡めてきたのだった。 今日はクリスマス・イブ。   とある事件で知り合ったご令嬢・更科春子さんが代表を務める慈善団体が経営する児童養護施設『菜の花園』 ひょんな事からそこへ通うようになっていた僕に、一週間前子供たちが一通の封書をくれた。 『クリスマスパーティーのご招待状』 色鉛筆で描かれたクリスマスリースが可愛らしい封筒には、カラフルな配色で、 『ふぶきおにいちゃんへ』 筆圧、大きさが異なるそれは、子供たちが一人一文字ずつ書いてくれたことを思わせる。 それから、中の赤いカードにはクレヨンでツリーが、拙いけれど力強い文字で、メッセージがしたためられていた。 『12月24日、クリスマスのパーティーをやります。 あそびにきてください。』 クレヨンのついた手で擦ったんだろう。 ワクワクしているような、それでも少し不安そうにドキドキしながら見上げる、緑に汚れた頬の子供の視線を受けて、「No!」なんて言える人間が果たしているのだろうか。 「ありがとう、竜弥。遊びに来させてもらうよ」 ───イヴは事務所を閉めるから、1日2人で過ごそう。君の作ったディナーが食べたい。ケーキは私が用意しよう。特別に美味しい店を知っている。 君の作るものには適わないだろうけどね。 僕の管理する一条ビルの店子+同居人+恋人…の探偵が嬉々として発した言葉が過ぎったけれど、 僕は可愛い子供たちの願いを優先してしまった。 クリスマス当日、25日は一日中二人きりでいるからと宥めて、ならばせめて自分も一緒に行かせろと、子供に恐れられる形相で駄々を捏ねる大男を連れて、イブのパーティーに参加することにした。 子供たちへのプレゼントを買いに行っては、「デート、楽しいね」 好きな食事を作ってやっては、「明日は何が食べたい?雪光の食べたい物、僕も食べたいな」 今日まで散々ご機嫌取りをしたから、もうそんなに機嫌が悪いわけじゃ無いとは思うんだ。 20以上も年が離れていて親子でもおかしくない年の差なのに、僕のことを「嫁にもらう」って言ってる竜弥とは、また大人気無くいがみ合っていたけれど。

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