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お仕置きはパーティーの後で2

「ただいま~っ」 玄関を開けて手も洗わずに、ソファーに俯せに飛び込んだ。 案の定、青山からは行儀がなっていないとぶつくさ言われ。 だけどコートを脱がして掛けに行ってくれる優しさは、嫌いじゃないなあと思う。 願わくば、その重低音の非難の言葉も引っ込めてもらえないだろうか。 菜の花園のクリスマスパーティーのメインのメニューは、チキンにケーキ。決して豪勢ではないけれど、子供たち大喜びのクリスマスディナーだった。 ご馳走のお礼に、お節を作ってお年始に行くのもいいな、なんて思う。 あいつらにも見せてやりたい!この和食の鉄人の腕前を!! まあ、店ではじいちゃんからずっと半人前ですら無い扱いだったけどな。 「風吹」 「んー?」 声を掛けられて、ソファーに横たわったまま体を回転させる。 「なんだその格好は」 だらしない、と眉を顰める青山の手には、シャンパンの瓶とシャンパングラスが二脚乗っていた。 「向こうでは飲めなかったからな」 「当たり前だろ」 子供達の為のパーティーだ。 ジュースや炭酸は有ったが、アルコールは無い。 先生達も、子供達が寝静まった後、皆で飲んでるのかな…? ………にしたって、こんな風には、飲んでないだろうけれど……。 真隣に───本当に1mmの隙間も空けずに座った雪光に、こっちからも擦り寄ってやる。 風呂に入る前だから、雪光の匂いが濃い。 重い花みたいな匂い……じゃあ分かりづらいか。 学が無いからボキャブラリーが貧困で、例える言葉を知らない。 ただ、嫌いじゃない……赤裸々に白状してしまえば、好きだと認める前から好ましいと思っていた香りを吸い込めば、なんとなく素直に甘えられるような気がして、セーターを脱いでインナーのシャツ一枚になった胸に、鼻をすり寄せた。 ───あくまで、気がしているだけだから、そうであるとは断言しない。 つまり何が言いたいのかと言うと、ずっと竜弥と一緒にいた僕を雪光が気にしていたように、 「雪光、お前、中学生の女の子たちに囲まれてデレデレしてただろ」 僕もそれなりに、気にしていたという訳で……。 「何を馬鹿な事を。シャンパーニュは飲まないのかい?」 「飲むっ」 「分かった。今注いでやるから、一気飲みはしないよう」 トポトポシュワ…と音をさせ、シャンパンがグラスに注がれる。 ………ほんの数センチ。 「これじゃ一気飲みもないだろ」 「酔って眠られては困るのでな」 カチン、とあてられた雪光のグラスには、僕の三倍程の量のゴールドラベルのドン ペリニヨンが注がれていた。 「Merry Christmas」 発音が良すぎて、おめでとうの言葉が嫌味にしか聞こえない。 「めりーくりすます」 思い切りカタカナの発音で応えて、グラスに口を付けた。 「………おいし…」 流石金持ちの用意したシャンパーニュ様。高い味がする。

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