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8.2人のプロ1

2人の男にコーヒーを出し、いつも通り窓側に引っ込もうとすると、探偵に腕を引かれ隣に座るよう促された。 初めての体験である。 相手が依頼人ではないから、だろうか。よくわからない。 会釈をしてソファーにつく。何故か神妙な顔をしてしまう。 どこか飄々と映る年配の男性と、眉間に皺のいった綺麗な顔立ちの若い男。 まるで彫刻のように整った顔は、しかし同じように彫り込まれた容姿の男っぽい探偵とは違い、中性的な美麗さを醸し出している。 ふと、気づいて皺を伸ばすように眉間を撫で、改めて畏まった彼はよくよく見れば童顔で、少しの親近感を覚えた。 コーヒーカップをソーサーに戻すと、年配の男性は親しみやすい笑顔を探偵に向けた。 「いやぁ、雪ちゃん。可愛い奥さんをもらったねぇ」 「おくさっ…!?」 「嫌ですねぇ、呉島さん。奥さんじゃなくて奴隷ですよ、奴隷」 「どれっ!?…いじゃねぇよ…」 脱力して小さくなってしまった訂正は彼らには無視され、ただ一人若い綺麗な男だけが憐れみを込めた視線を向けてくる。 「あのっ、僕はここのオーナー兼管理人の、一条(いちじょう) 風吹(ふぶき)と申します。奴隷じゃないです、奴隷じゃ」 「オーナー?ってことは、美人の初音さんは?」 「ばあちゃ…祖母は隠居して今は田舎の方に」 「そうかぁ、残念だなぁ」 呉島さんは眉尻を下げて頭を掻く。 けれど、きっとそれは社交辞令だ。 ばあちゃんとこの人では、多分20歳ほどの年の差がある。 「風吹ちゃんはいつからここに?」 「半年ほど前です」 「そうかぁ、俺が前回来たのがもう…ありゃ一年前か?」 「10ヶ月前ですよ。それより呉島さん、一条君を名前で呼ぶのはやめてくださいよ。私だって苗字でしか呼ばせてもらえないのに」 「ほ~、風吹ちゃんは身持ちが堅いんだねぇ」 なんの話だ。なんの話をしに集まったんだお前らは。 大体、名前で呼びたきゃ別にそう呼べばいいじゃないか。 他のことは散々好き勝手するくせに、名前だけは許可なく呼べないだなんて、そんな筈がないだろう。 探偵をじろりと睨み付ける。 当然まったく響かないようで、くすりと笑って肩を竦められた。 ……いや、やっぱりこいつに名前で呼ばれるのは不本意だ。 「あの、呉島さん。風吹はいいんですけど、ちゃん付けはやめてもらっていいですか?僕もう1~2年もすれば大台に乗る歳なので」 「っ…一条さん、28歳なんですか?」 食いついたのは、意外や若い方の男だった。 「失礼、名乗り遅れてしまい申し訳ありません。名波(ななみ) (あおい)と申します。階級は警視です」 「けいし…?」 「ああ、風吹ちゃん、俺は呉島(くれしま) 正雄(まさお)。警部だ」 聞き慣れている訳ではないが、分からないでもない“警部”という言葉。流石にすぐにピンときた。 この2人は、警察の人間だったのだ。 探偵がプロと言ったのは、そういう意味なのだろう。 交通課や少年課、交番の警察官たちとは異なる感じがする。 これが刑事さん、という雰囲気か。

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