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10.予告状1

「それは本物ですか?」 「どれどれ…」 探偵から渡されたそれを開いて、正さんは中身を取り出した。 赤いカードだった。 「そうだねぇ。俺は最近老眼が入ってきちゃってねぇ」 葵君の手に渡ったカードに、見覚えがあった。 それを見たのは午前中、更科重行の遣いで来た本田尚哉が探偵に手渡した時だった。 僕は例のごとくこちらに追いやられていたから、今と同じ、遠く離れた椅子の上からだ。 赤いカードに、黒…いや、濃茶か、何かが書かれているのは見える。 普段の生活に眼鏡が必要なほどではないがやや近眼気味だから、その文字までは判別できない。 ───の───く…? 「……痛っ!!」 「こら、悪い子だ」 気づけばいつここまで来ていたのか、探偵に頭をごつんとやられた。 こつんではなく、ごつんとだ。 「民間人が事件に首を突っ込んでも、何も良いことはないよ、一条君」 「悪い子ってなぁ…」 見た目は兎も角、僕の方が3つも年上なのだが、奴にはそんな事実は関係ないらしい。 「終わったら遊んであげるから」 酷い言われようだ。 「わかったよ、夕飯の買い物行ってくる」 「いや、それは後で、私も一緒に行こう。終わるまで待ってい給え」 「…じゃあ、猫と遊んでる」 「ああ、いい子だ」 「だーれがいい子だ!」 探偵が戻っていくと、珍しく仔猫の方から僕に寄ってきた。 猫にまで哀れまれているのか、僕は。 なんだか虚しくなる。 引き出しにしまってある猫じゃらしを取り出して、仔猫の目の前で振った。 「ほ~ら、ねこねこ~」 一生懸命追いかけて、猫じゃらしと戯れる仔猫に、少し心が癒される。 「ねこ、ほらこっちだ、ねこっ。ほら、がんばれ!もうちょっとだっ」 「一条君、少しおとなしくしていなさい。28にもなって」 「なっ…!!」 酷い男だ。猫と遊ぶのに、歳なんて関係ないだろう。 睨み付けてやると、その向こう側で正さんが苦笑しているのが見えた。 猫と遊ぶのに歳は関係ない───筈なのだが、少し恥ずかしくなって猫じゃらしを引き出しに戻した。

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