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11.予告状2

声を出さずにいると、向こうの声がよく聞こえてくる。 「青山さん。これはどうやら、本物のようです」 葵君が探偵にカードを戻しながら言った。 恐らくは、本物の『連続殺人の予告状』と言う意味だろう。 では本当に、更科春子は犯人から狙われているのだろうか。 それでは今、彼女はとても危ない状況にあるのではないのか? 先ほど彼女がここに来たのは、父親からの依頼を取り下げるためではなかったろうか。 何故、そんな真似をしたのだろう。折角親が雇ってくれた探偵を、彼女が拒絶する理由は何だ? 予告状が悪戯か何か、偽物だと思っていたからではないだろうか。 巷でも悪戯に偽の予告状が出回っているという。 模倣犯と言うより、愉快犯の犯行だ。 本人たちはきっとただの悪戯だと思っている事だろう。 しかし、それを信じて怯える者がいれば、もし裁く法律が無かったとしても、それは罪なことである。 だが、今警察の手により、それは本物だと判断された。 他に彼女を護る者がいるのだろうか? 例えばそれは、あの運転手であったり、信用できるボディガードであったり。 確かに、会ったこともない探偵よりも信頼がおけるものに護られた方が安全かつ安心だ。 探偵も、彼女に拒否されお金まで渡されたのだから、一方的に護ることなど………あれ? 「青山、それ、彼女に返さなくて良かったのか?」 応接テーブルに置かれた予告状を指す。 「いいんだよ。彼女に言われたのは、護るなと言うことだけだからね」 警察に連絡すれば、自分が護らなくても安全と言うことか? 「しかし更科氏からの依頼は、犯人の限定だ」 「犯人…?」 「犯人を捕えることができれば、娘の生死は問わないと」 「え…?」 娘の生死…問わない…? 「それって…」 「一条君が気にすることではない。君は今晩のディナーのメニューにでも頭を悩ませていればいい。こちらの仕事は我々が解決することだ。君は君にしか出来ない仕事をし給え」 今日はフレンチの気分だ、と言うと、探偵は僕から視線を逸らした。 「風吹ちゃん、コーヒーのお替りをもらえるかい?」 コーヒーカップを掲げて見せる正さんに、頷き返して席を立つ。

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