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13.予告状4
「そうだな…、フレンチは諦めよう。教養のない、テーブルマナーと言う言葉さえも知らないであろう君にフレンチは重荷だろう。メインはキッシュロレーヌがいい。それからスピナッチのコンソメスープに、ルッコラのサラダ。ブレッドは、バゲットをガーリックトーストにしてくれ。それから明日の朝はエッグベネディクトを所望する」
探偵が矢継ぎ早にまくし立てる。
頭のメモに収まりきらない。なんだその横文字のオンパレードは。
僕は生粋の日本人なんだぞ。僕でも分かるように日本語で全部言いやがれ。
それにテーブルマナーだって、言葉ぐらいなら聞いたことがあるわ、この野郎。
……いや、違う。そうじゃない。
馬鹿だと言われただけだ。
何か、明確な言葉を返されたわけじゃない。
なのに探偵は、難しい言葉を並べ立てて何かをごまかそうとしている。
僕の言葉に何一つ、答えていない…!
「青山…っ」
「それじゃあ雪ちゃん、俺たちはそろそろ行くよ」
探偵を呼んだ声と被さるように、正さんが席を立った。葵君もそれに倣い立ち上がる。
「風吹ちゃん、ご馳走さん」
「ご馳走様でした」
「…い、いえ……」
じゃあまたな、と言い残し、警察の2人は事務所を出て行く。
「青山、春子さん…」
「覚えられたのかい?」
「え…?」
探偵が少し屈みこみ、顔を近づけてくる。
思わず目を瞑ると、耳元に息が吹きかけられた。
「エッグベネディクト」
「え?」
「ほら、言ってごらん。エッグベネディクト、だ」
「えっ…ぐ、べねでぃくと…?」
「まあ、いいだろう」
手からコーヒーサーバーが奪われ、探偵のカップにコーヒーが注がれる。
「忘れないうちに作り方を調べた方が良いのではないかな。それとも君は、明日の朝までその単語を記憶していることができるのか」
「えっ、ちょっと待て!青山、もう一回」
「さあ、なんだったかな」
「ずるいぞ。紙に書けよ!」
「君も飲むかい?特別に私がカップを取りに行ってやろう。感謝し給え」
「そんなの自分でやるから、青山~っ」
そうして僕はまんまと探偵に乗せられて、大切なことから思考を逸らされてしまったのだ。
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