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16.新宿2
新宿は家からそう遠くないから時々遊びに行く場所だ。
渋谷よりも原宿よりも、様々なものがあって、そして様々な人がいる。
僕が良く行くのは、東口、西口、南口の駅近辺であって、タクシーが停まった此処は、初めて見る場所だった。
「私から決して離れぬよう」
代金を払いタクシーから降りた探偵は、財布をしまうと耳元に唇を寄せ、そう囁いた。
危険な道なのだろうか?もしかして、はぐれたら売られる!?
新宿でも一歩裏道に入れば危ない所もあると聞いたことがある。
地方の人が怖がって言っているだけだと思っていたけれど、もしかしたら本当に…?
身震いして思わず掌まで伸びたシャツの袖を握りしめると、探偵がその手を取り、一本一本指を開かせていった。
「余り強く握るものではないよ、爪痕が付く。それに私から離れなければ平気だ」
「うん…」
探偵の服の裾に掴まると、待っていたかのように歩き出す。
街は静かだった。
一歩表に出れば、変わらぬ新宿の喧噪が聞こえるはずである。
目を上げると、ぽつんぽつんと道に若い男が立っている。
何をしているんだろう?…何もしていないように見えるけれど。
「ここだ」
探偵はその雑居ビルの前で足を止めた。
確認する隙も与えられず、探偵は地下へ続く階段を下り、準備中と札のかかった扉を押し開く。
「いらっしゃ~い」
酒焼けした声が聞こえた。
薄暗い店だった。小さなバーのようだ。酒の臭いが充満している。
カウンター席の他に、四人掛けのテーブル席が二つ。その一つには、店員と思われる女性が足を組んで座り煙草をふかしていた。
カウンターの向こう側からは、短髪の男性が肘を突いてこちらを伺っている。マスターだろうか。
「あらぁ、青ちゃん彼氏連れ?」
「違いますよ、ママ。これは奴隷です」
ママ───その呼称を聞いて、漸くこの場所についての合点が行った。
この店は、ゲイバーだ。
此処は新宿の中に存在する、そういった人々の集まる小さな町の中だったのだ。
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